セビーチェ
家族からリクエストされる土産はいつも漬物。千本通のこの店で買うことになっている。
生まれて初めて「セビーチェ」なるものを食べた。セビーチェは南米料理、生魚をライムかレモンで締めたもの。白身魚やタコで作る。ちょっと刺身のようで、ちょっと昆布締めのようで、なかなか美味しかった。Tさんのお宅で、晩ごはんの前菜に出て来たもの。Tさんの奥さんが南米の方なので、彼女の作品かと思いたくなるが、実は息子さんの奥さんが作って持って来られた。息子さんの奥さんは日本人である。
「お母さんのお国の料理を作って、ちょっと僭越かも・・・」
と言いながら出された。
「美味しい!爽やかな舌触りと、爽やかな味やね。」
僕は気に入った。
さて、美味しいものを食べたら、自分でも作ってみたいと、いつも思ってしまう僕。早速、帰りの新幹線の中で、セビーチェのレシピをグーグる。翌日は、京都最後の夜である。晩御飯にセビーチェを作ろうと思ったのだ。
翌日の午前中、スーパーへ行って、鯛の刺身と、タコを買う。レモンとライムも一緒に。そして、刺身を更に薄く切って、レモンとライムの汁に浸しておいた。それまで、僕と母が一日交代で晩ごはんを作ってきたが、最後の夜は、母が一品、僕が一品の共同作業。母は魚のすり身と卵を混ぜて焼いた「伊達巻」を作るという。実際、母は九十一歳になるが、ご飯を作るのも食べるのも大好き。僕より量を食べてるいのではないかと思うほど。
食事の下拵えをして、午後五時、何時ものように銭湯、船岡温泉に向かう。歩いて一分。
「日本で一番何がしたい?」
と聞かれたら、銭湯へ行って、刺身を食いたいと言うだろう。今回も、京都にいる間はほぼ毎日銭湯に行って、いつも外人さんを捕まえては、話し込んでいた。風呂の中って、結構話が弾むのである。明日は京都と発つという日、銭湯へ行くと、
「ああ、しばらくこの気分を味わえないのか。」
とちょっと名残惜しい、センチメンタルな気分になる。
ところで、今回船岡温泉に行って、ひとつの驚きがあった。銭湯には、鏡が壁にズラリと取り付けている。そして、鏡の下側、五センチほどに、その鏡のスポンサーというか、小さな広告が入っている。近所の居酒屋とか、近所の医院とか、個人商店とか、銭湯の向こう三軒両隣にある、地元の人が利用する店などの広告が多い。そこに「ケロリン」と書いた、黄色い洗面器があれば、完璧な昭和の銭湯。ともかく、そんな中に、
「イルカを助けよう。」
という地球環境保護団体の広告の入った鏡があった。これは斬新。
一通り、全部の湯に入った後、六時になり家に戻る。冷たいキリンの「一番搾り」を飲みながら、セビーチェを盛り付けた。
漬物を買った帰り、昔通った乾隆幼稚園の前を通る。ちょうど入園式だった。