落語

 

落語シアターの隣の天満宮で、初宮参りの記念撮影をする家族。微笑ましいね。

 

三月二十一日に大阪の「天満天神繁盛亭」っていう専門の劇場へ、落語を聴きにいったの。「落語」は日本独特で、一人の演者がコミカルなストーリーを語る話芸。着物を着て、座ってやるんだ。昔、桂枝雀さんという人が、英語で落語を始め、海外でも公演をしたの。そのときに、海外のお客の前で、まず「落語とはどのようなものか」を説明したんだって。

「語り(ストーリーテリング)には違いありませんが、ある部分は会話で、ある部分は舞台劇、喜劇のようなものです。でもお芝居と違い、背景も、衣装も、メーキャップも何もありません。お芝居ですと、違った人々が舞台をウロウロしますが、我々の場合は、ひとりでお客さんと差し向かい、どれだけ待っても、後から誰も出てきません。誰もいないところに向かって、

『どうしたんだ?』

なんて言いますけど、どうぞおかしくなったと思わないでください。落語ではイマジネーションが大変重要でして、

『あなたそこで何しているの?』

と言ったときには、相手の人間がそこにいるのをイメージしなくてはいけないんです。私が登場人物Aで、彼が登場人物Bなんですよと。

『どうした、何か用ようか?』

と今度はこっちを向いて言ったときには、私が登場人物Bで、登場人物Aはこちら側にいるんです。ふたりの人間のクイックチェンジです。」

これでだいたい分かってくれた?

 僕は、毎日来るまで通勤しているけど、車の中でよく落語を聴いている。落語のCDだけで、百枚くらい持ってるよ。その日は、昼前に京都を電車で出て、途中で一回乗り換えて、開演の二時間ほど前に大阪の天満に着いた。横が「大阪天満宮」という大きな神社で、そこを見学したり、商店街や川沿いを散歩したりして、開演時間を待っていたわけ。日本では、赤ちゃんが生まれて一ヶ月目に、「初宮参り」と言って、赤ちゃんを連れて神社へ行き、赤ちゃんの健やかな成長を祈ることになってるの。ちょうど、キリスト教の洗礼のようなものかな。その日も天満宮で、赤ちゃんを連れた両親や、祖父ちゃんお祖母ちゃんを何組も見かけた。抜けるような青空なんだけど、三月にしては北風が冷たい日で、赤ちゃんがちょっと寒そうだったね。

 十二時半になって、劇場の中に入った。二百五十人で満席になる小さな劇場。切符に振られた番号の若い順番に入れて、僕は三十番くらいだったので、真ん中の前から二列目という絶好の場所に座れた。話者との距離は五メートルほど。CDで聴くのとはずいぶん違った。落語というのは声だけでなく、ジェスチャーや表情でも笑わせるんだ。CDだと声だけだけど、その日は表情と身振り手振りでも大いに笑った。三時間かかって、十人の演者によるパーフォーマンスを見たわけ。どの演者もそれぞれに個性があって面白かった。しかし、ひとつひとつは面白くて、せいぜい二十分くらいでも、十人分聴くと結構疲れたね。

 時々、落語の他にマジックとかお人形を使った腹話術とか、気分転換のためか、別の芸も混ぜてあるの。ゼンジー北京さんという人がマジックをやったけど、この人、僕の子供の頃から出ているひとで、もう八十歳近い。とっても懐かしかった。

 

休みの日の昼過ぎということで満員だった。笑って半日過ごすのはとっても良い考え。

 

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