烏丸車庫
床几に腰かけてお茶を飲みながらあぶり餅を食べる、ちょっと時間の流れが止まる。
貴船から「下界」に戻って来た僕たちは、カメラを交換するために、まず僕の母の家に寄った。僕は今回、ポケットカメラと、一眼レフの二台のカメラを持ってきていた。バッテリーの上がったポケットカメラをリュックから出して、代わりに一眼レフを入れる。
「私も『デジイチ』買おうかな。」
とユーコ。僕は付いていけない。
「えっ、何買うって?」
「デジタルの一眼レフやん、それで『デジイチ』。」
日本人って、本当に何でも言葉を短くするのが好き。日本にいない僕は、時として、その「短縮形」に付いていけない。その後、待ち合わせ場所の四条に行った時も、彼女は、
「ちょっと時間あるし、大丸の『デパチカ』見ていこ。」
と言った。僕が理解していないのに気付いた彼女は、それが「デパートの地下の食料品売り場」を指すことを教えてくれた。厳密に言うと、ユーコも日本にいないのだが、彼女は結構日本のトレンドを追っていて、最近の日本の事情に詳しい。(少なくとも僕よりは)「あまちゃん」も第一回から最終回まで、非合法ウェッブサイトで全部見たという。
名物「今宮神社のあぶり餅」を食っていこうということで、僕の母の家から歩いて十分ほどの今宮神社に行った。神社の右側の石畳の道の両側に、二軒のあぶり餅屋が向い合せにある。一方が創業一千年、もう一方が創業四百年という、とてつもなく古いお店。「かざりや」という新しい方に入って、一皿五百円のあぶり餅をふたりで分けて食べる。食べている横で、三人のおばさんたちがせっせと餅を丸め、きな粉をまぶし、竹の串に刺している。
「毎日あんなことしてて、飽きひんのやろか。」
とユーコが言った。
「あれで結構変化をつけてはるかも知れんよ。次はちょっと形を変えてみようかな、なんて。次は鼻くそ入れてみようかな、なんて。」
「もう。」
あぶり餅を食った僕たちは、オオツカGとヨリコと待ち合わせている、四条烏丸へ行くことにした。
「ここからやったら、バスで烏丸車庫まで行って、地下鉄に乗り換えるわけね。」
とユーコ。僕はちょっと逆襲に出ることにした。
「『烏丸車庫』やて、古〜う。歳が分かるで。」
今、地下鉄の北大路駅のある、北大路通と烏丸通の交差点には、かつて市電の車庫があった。北大路烏丸とは誰も言わないでその場所は「烏丸車庫」と呼ばれていた。しかし、烏丸車庫は一九八七年、市電の廃止とともに消滅しているのだ。もう三十五年前。
「かまへんやん。あそこはずうっと烏丸車庫なん。」
ユーコが反論する。
あぶり餅を記念撮影するユーコ。