ひこにゃんに会いに

 

彦根城博物館に展示されている井伊家伝来の甲冑。兜がひこにゃんのモティーフになっている。

 

京都で、静かなお寺の庭を見ながら、瞑想に耽ったり、本を読むのも良い。しかし、京都のお寺は最近帰ったときにかなりまめに参っており、かなり行き尽くした感じ。思い浮かばない。そこへ、彦根城が現れたのだ。僕は日本のお城も結構好きで、帰国したときに、福山城、姫路城、高知城、姫路城など結構見て回った。しかし、京都から至近距離にあって、「国宝」の彦根城はまだ行ったことがない。時刻表を調べると京都駅から一時間で着けるとのこと。

「明日の目的地はこれで決まり。目標はひこにゃんとの握手。」

ちなみに「ひこにゃんとは」彦根城のゆるキャラで、ゆるキャラの草分けであり、全国ゆるキャラ人気投票にも、熊本県の「クマモン」ともにベストテンの常連であるという。この「ゆるキャラ」というのは日本的。海外ではオリンピックのマスコット以外にお目にかかったことがない。

午前十時に、京都駅から米原行きの電車に乗って一時間余り。十一時十五分に彦根駅に着く。グーグルマップでの下調べによると、商店街を通って約一キロで城の門に到着するとのこと。駅前で早くもひこにゃんの看板が迎えてくれる。おそろしく人通りの少ない、ゴーストタウンのような商店街を抜け、堀に架かる橋を渡り、彦根城址に入る。「本日のひこにゃん」という看板が立っている。この後だと十三時三十分から博物館の前で「パーフォーマンス」があるという。何かあってもその時間には戻ってなければ。

切符を買って、天守閣に向かう坂道を登る。途中、江戸時代の服装をした人々がウロウロしている。それも結構本格的なカツラをつけて、凝ったメーキャップまでやっている。

「彦根城も結構観客サービスに熱心やん。」

と思って良く見ると、撮影機材が。時代劇の撮影をやっていたのだった。気温が二十五度を超える日で、江戸時代の服装をして鬘をしっかりかぶっている俳優さんは大変そう。天守閣に通じる門の前で、十分ほど「本番中」ということで待たされた。待っているとき、アシスタントディレクターのお兄さんに、何の映画かと尋ねてみると、

「『散り椿』です。」

「わあ、岡田准一さんが来たはる。」

と感慨深げに隣のおばちゃんが言っておられるが、僕は最近の日本の俳優さんは全然知らない。

 天守閣自体は、一六二二年完成ということで、非常に古いものであり、国宝となっている。他のもっと後で作られたものに比べ、小ぶりな天守閣であるが、均整が取れていて、優美さよりも緊張感の漂う美しさだ。天守閣の上から、伊吹山と琵琶湖が見える。近くに陸上競技場があり、試合が行われているらしく、競技のアナウンスの声が聞こえてくる。彦根城は井伊家の居城。大老として日米修好通商条約を結び、安政の大獄を指揮し、桜田門外の変で暗殺された、井伊掃部守井伊直弼(いい・かもんのかみ・なおすけ)が有名である。米国のハリスに開国を要求されて、

「いい、カモン!」

とオーケーしちゃったのが運の尽きだったようだ。

 

登場から十年以上経っても、いまだ人気の衰えることのないひこにゃん。実際可愛い。

 

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