シャッター押していただけませんか

 

兼六園でドイツ人の女性に撮ってもらった写真。僕がドイツ語のTシャツを着ていたのでドイツ語で話し掛けられた。

 

独りで旅をすると自分の写った写真が欲しい。ふたりで旅行するときだってふたりとも写った写真が欲しい。それで、

「すみませ〜ん、シャッター押していただけませんか。」

ということになる。これがヨーロッパではごく普通、観光地の写真スポットでは、見ず知らずのひとがお互いにカメラを交換して撮り合っている。日本でもそうだと思っていたのだが、今回それに疑問を感じ始めた。

僕のカメラはニコンの一眼レフ。コンパクトカメラ、携帯やタブレットのカメラとちょっと写し方が違う。ファインダーと呼ばれる小さな穴を目に近づけて覗いて被写体を見る。モニターには何も写らない。携帯電話で撮るのとはずいぶん違う。いちいちカメラの使い方を説明するのも面倒なので、出来るだけ一眼レフを持った人に頼んで写してもらうことにしている。それに、一眼レフを持っているくらいだから、少なくとも写真を撮ることが嫌いではないはず。したがって腕も「そこそこ」のはず。

今回金沢の兼六園へ行った。ツツジがきれい。カキツバタもまだ残っている。カキツバタの前で、同じニコンの、それももっと高級な一眼レフを持っている日本人のおじさんを発見。

「すみません、シャッター押していただけませんか。」

と頼んでみた。おじさんは極めて当惑した顔で口の中で何かブツブツ言いながらも写真は撮ってくれた。ここで、日本で写真を撮り合う習慣に対して最初の疑問を抱く。しばらく行って、霞池の前で、今度は外国人のサングラスをかけた若いお兄ちゃんに英語で同じことを頼んでみた。そのお兄ちゃんのカメラもニコンの一眼レフだ。

「シュアー、三、二、一、チーズ。もう一回行くからね。三、二、一、チーズ。チェックしてみて。」

「オーケー、パーフェクト!。」

いつもの会話になった。幸いその日は観光客の半分くらいが外国人だったので(兼六園も国際的になったもの)、それからは「一眼レフを持っている外国人」をターゲットにして写真を撮ってもらうように頼んだ。多かれ少なかれ最初のお兄ちゃんと同じような反応で、快く応じてくれたし、その後、

「どちらからいらしたんですか。」

などというプラスアルファの会話もあった。

数日後、京都洛北の詩仙堂。そこも金沢、兼六園と同じくツツジがきれいだった。自分を入れた写真が欲しい。しかし、外国人の観光客はいない。立派な一眼レフを持ったおじさんが庭にいたので、出来るだけ丁寧に尋ねてみる。

「あの〜、すみません、シャッター押していただけませんか。」

「他の人に頼んでください。」

そう言って、そのおじさんはスタスタと行ってしまった。

 

詩仙堂で、やっと一眼レフを持っている人を見つけて撮ってもらった写真。

 

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