紅葉を見に(二)

京都大原三千院、恋に疲れた女がひとり〜。

 

貴船での紅葉が、思ったほど「濃く」なかったので、翌々日の月曜日、大原に挑戦。その日も、例によって朝父の病院に顔を出した後、北大路駅から北行きの地下鉄に乗る。終点の国際会館前から大原行きのバスが出ているのだ。

駅を降りると、平日にも関わらず、大原行きのバス停には長い列。七十人はいるだろうか。

「こんな沢山の人、一台では乗り切れへん。」

と思いながら列の最後尾についた。

数分後、「大原・臨時」と書いた京都バスが来る。ちょうど一台のバスが一杯になるだけの人が並んでいたようで、全員が乗れた。満員の京都バスは八瀬から山道に入る。くねくねと曲がりくねった道を三十分足らず走って大原に着いた。

三千院へ上がる細い道の傍には、漬物などを売る店が並んでいて、なかなか賑やか。例によって、どこへ行ってもすぐ「ご当地ソング」を歌ってしまう僕は、

「京都、大原三千院、恋に疲れた女がひとり〜

結城に塩瀬の素描の帯が、池の水面に揺れていた〜」

と唄いながら歩く。

三千院に入る。まず建物の中に入り、それから庭園に出る。

「なるほど、『紅葉の名所』と言われるだけのことはあるわ。」

濃いオレンジ色から朱色に染まった楓が、緑の杉の木に映えて美しい。庭で、イスラエルから来た青年と話す。彼は十日間の日本滞在を京都のお寺にだけに絞っているという、なかなかの「通」だ。彼も銭湯が好き。話が合う。毎日銭湯に入るのを楽しみにしているらしい。

「でも電気風呂に入ったときは驚いた。」

彼は言った。

三千院を出たところで彼と別れる。国道を渡り、狭い道を一キロほど歩いて寂光院へ向かう。途中の屋台で味噌を塗ったコンニャクを買って食う。結構いける。

寂光院は平清盛の娘、安徳天皇の母となる建礼門院が晩年を過ごした場所だという。人が少なくこじんまりしていて、三千院よりは断然気に入った。二〇〇〇年に放火による火災に遭い、本道が消失、本尊は黒焦げになったという。その後新しく作られた本尊の後ろに小さな仏像が並んでいたが、千体あったこの小さな仏像の多くも火事で失われたという。しかし、心の落ち着く、いい場所。紅葉も、真紅、オレンジ、黄色と色取り取りで美しかった。

 午後遅く病院に戻り、三千院と寂光院を訪れたことを告げる。

「寂光院は何年か前に一度放火で火事になったんや。仏さんも焼けてしもうてな。」

と父。身体は動かないが、父の記憶力は衰えてはいない。

 

少し歩かねばならないが、紅葉も、雰囲気も最高の寂光院。

 

<次へ> <戻る>