紅葉を見に(一)
叡電二ノ瀬駅、この駅を出た後電車は「紅葉のトンネル」に入る。
金沢から京都に戻る。今回の一時帰国は十一月の中旬なので、京都で紅葉が見られるものと期待していた。しかし、暖かい日が続いていたせいか、街中の木の葉は、堀川通や紫明通のイチョウの葉が黄色くなりかけていた程度、また十分には色づいていなかった。
「まだ紅葉はイマイチやね。」
と継母に言うと、
「いつもは勤労感謝の日の頃が見頃なんやけどねえ。今年は暖かい秋やったやろ、そやし遅れてるみたい。そやけど、高尾の方は今が盛りということえ。」
俳句を詠み、京都の四季に対して事情通の継母は言った。当然のことながら、山の紅葉は里よりも早い。高尾はちと遠いが、比較的簡単に行ける貴船か鞍馬に行ってみることにした。
土曜日の朝九時半、例によって父の病院へ行った。珍しく父は眠っており、起こすのも可哀想。午前中どこかで時間を潰すことにする。
「よし、紅葉を見に行こう!」
そう決意して再び自転車に乗る。
父の病院のある北大路橋から東へ向かって自転車で十分ほど走ると、東大路通りに入る。間もなく叡山電車、通称「叡電」と交差する。そこから、叡電に乗ると、三十分くらいで鞍馬と貴船に行けるのだ。
自転車を元田中駅前に停め、鞍馬行きの二両連結の電車に乗る。土曜日ということで、電車は紅葉見物の客を捌くためか、臨時列車を走らせ、特別ダイヤで運転されていた。それでも電車は観光客で満員。
宝ケ池で八瀬行きと分岐した後、間もなく線路が単線になる。駅で何度か行き違いの電車とすれ違う。僕の乗った電車はごく普通の通勤用の車両だが、すれ違う電車を見ると、紅葉のマークと、屋根までの大きな窓の付いた、「紅葉観賞用」の特別車両も走っている。そして、どの列車も満員だ。桜の花も人々を誘うが、紅葉も同じ。そう言う僕も、誘われて来ているひとりなのだが。
二ノ瀬という駅を出ると、「紅葉のトンネル」に入るというアナウンスがあった。線路の両側が楓の木になり、電車が徐行を始める。
「わ〜、きれい。」
という、女性の声が社内に満ちる。男性と女性がほぼ半々に乗っているのだが、嘆声を発するのは女性だけのようだ。楓の葉の色はまだ完全に赤くはない。葉は半分色づき、半分緑が残っている。夜はここがライトアップされるということだ。
貴船口駅で降りて貴船側沿いに貴船神社まで歩く。道の脇の楓の木はきれいなオレンジ色になってはいるが、楓の木の密度はそれほど大きくない。比叡山から吹き降ろす風が冷たい。貴船口駅で食った暖かい「山菜うどん」が美味かった。
叡電貴船口駅、紅葉と紅葉狩りの人々の間を電車が静々と入ってくる。