指宿枕崎線

山吹色の菜の花列車。いかにも九州らしい。

 

鹿児島に着いた翌日、どこへ行こうかということになったが、生母と僕の意見は、指宿枕崎線に乗るということで一致した。同線は鹿児島から更に南に向かい、薩摩半島の東側を漁港で有名な枕崎まで走っているローカル線。どこまでも「乗り物大好き」な親子なのだ。そして、途中指宿で下車して、「砂蒸し温泉」に行くことになった。

翌朝ホテルで朝食を取った後(もちろん「薩摩揚げ」が付いていた)、七時五十一分発の指宿枕崎線のジーゼルカーに乗る。二両編成のジーゼルカーは鮮やかな山吹色に塗装されており、「NANOHANA」という大きな字が書かれている。「菜の花」列車ということらしい。鹿児島中央を出たときは通学の高校生で満員だったが、二十分ほどで彼等は全て降りてしまい、残る乗客は七、八人だけになった。キラキラと光る錦江湾、向こう岸には大隈半島、左には煙を上げる桜島、右には開聞岳が見える。なかなか風光明媚な線だ。新幹線はつまらない。特に山陽新幹線は。トンネルばっかり。従って、新幹線に乗るときは、本を読んでいるに限る。しかし、今日の指宿枕崎線は、本を読むには惜しすぎる。

指宿で一度下車して、歩いて「砂蒸し会館」へ向かう。海岸の熱い砂の中に「生き埋め」にしてもらい、たっぷり汗をかこうというわけだ。シーズンオフだからだろうか。指宿の町は人通りが少なく、何となく「ゴーストタウン」のような雰囲気。暖かく、Tシャツ一枚で歩いていても寒くない。

「砂蒸し会館」の受付で、金を払い、浴衣と帯を受け取って更衣室に入る。そこで素肌の上に浴衣だけ羽織って海岸に下りて行く。そこで砂に埋めてもらうのだ。横になると、お兄ちゃんがスコップで砂をかけてくれる。「戦場のメリークリスマス」のデヴィド・ボウイになった気分。最初はそれほど熱いと思わない。ホコホコと気持ちが良い。だんだんとお尻の辺りが熱く感じられるようになる。十五分が限界か。その後、風呂に入ってお終い。海岸沿いを駅まで歩いて帰る。南国の太陽が、海面にキラキラと輝いている。

十一時十九分発の、枕崎行きの列車に乗る。次の山川という駅で、十五分ほど停車した。列車を降りる。ハイビスカスの赤い花が咲き、蝶が飛んでいる。

「やっぱり南の国は違う、天気の良い所はいいな。」

と思う。停車中、英国人の夫婦と話す。二週間、日本を旅行しており、今日はこれから開聞岳に登るとのこと。なかなか渋い旅行を続ける人々だ。山川を出ると、開聞岳が迫ってくる。海岸から聳え立つ独立峰、富士山のような端麗な山容。美しい山だ。標高九百メートル余で、有史時代に数回噴火をしている。「開聞」という駅で、英国人の夫婦は降りた。

日本最南端の駅「西大山」で停車。乗客は全員観光客で、その全員が列車を降りて、記念写真を撮り始めた。僕も降りて写真を撮る。皆が一通り写真を撮り終えたころ、運転手が運転台から顔を出して言った。

「よろしければ、ぼちぼち発車しますけれど。」

「よろしければ」、「ぼちぼち」、のんびりしていてとても良い言葉だ。

 

砂に埋もれて汗をかく人々。霧島、桜島、開聞岳と火山が続く場所なればこそ。

 

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