可愛い車掌さん
どこへ行っても龍馬、龍馬、ホンマに龍馬さんのおかげです。
九時過ぎ、ヨーコと店を出る。高知の郷土料理は美味しかったが、彼女とふたりになってからは、積もる話に夢中になり、何を食べたのか、何を飲んだのか、余り覚えていない。彼女は僕をホテルの前まで送ってくれた。商店街を抜けるとき、「龍馬さんのおかげです」と書かかれた垂れ幕が見える。
「今年はNHKの大河ドラマで『龍馬伝』をやってるでしょ。どこへ行っても龍馬、龍馬なの。」
ヨーコが言った。
翌朝、六時に目を覚ます。七時過ぎにはりまや橋の前にあるホテルを出て、高知駅まで歩く。七時四十五分発、土佐くろしお鉄道、「ごめんなはり線」のディーゼルカーに乗り、安芸市に向かう。安芸は阪神タイガースが昨日までキャンプを張っていた場所。記念に見ておこうと思ったのだ。
「ごめんなはり線」というのは方言で「ごめんください」とでもいうのだと思っていたが、実は「後免駅」と「奈半利駅」を結んでいるのでその名がついたのだった。ひらがなで書くなよな、紛らわしい。
安芸球場前駅で降りる。室内練習場、球場、ブルペンなどを見て歩くが、もちろんキャンプは終了しており、誰もいない。すべてがひっそりとしており、そこで行われたた激しい練習と生存競争の跡を感じさせるものはない。「つわものどもの夢の跡」とでも言おうか。
九時十四分発の奈半利行きに乗ろうと思い、駅に戻る。駅の待合室で、若い、うちの末娘くらいの歳の女の子が、散らかったゴミをポリ袋に集めている。水色のジャケットを着た、色が白くて愛嬌のあるお姉さんである。
「お嬢さん、偉いですね。」
僕はそう言って、彼女のゴミ拾いを手伝う。
「わたし、この鉄道の車掌なんです。これから仕事なんですよ。」
僕は驚いた。何て可愛い車掌さん。(一昨日の美人運転手に続いて!)
「この近くに高校があって、高校生がいつもゴミを散らかすんですよね。」
と彼女。
「でも昨日は津波警報で、列車が運休になったのでお休みだったの。ラッキー。」
ディーゼルカーに乗り込む。反対方向に行く彼女は乗らない。社内から彼女に手を振ると、彼女は手を振り返してくれた。
漫画家のやなせたかしさんがこの地方の出身とのこと。ごめんなはり線の駅には、やなせさんの作ったキャラクターの人形が飾ってある。それをひとつずつ追っていくのも楽しい。
一両のディーゼルカーは途中安芸駅で反対方向の車両とすれ違った。その車両は黄色で阪神タイガースのマークが入っていた。ここ安芸市は阪神タイガースで持っているらしい。まどの外はビニールハウスが並んでいる。どんな作物がその中にあるのかは分からない。ビニールハウスに反射する太陽の光が、走る列車の中を動き回っている。
安芸球場前駅で、可愛い車掌さんと地元のおじさん。