英国では話せない体験

 

A先生ご夫妻と、「はりはり鍋」を食べる。若いきれいなお姉さんが給仕をしてくれた。

 

A先生は、背広にネクタイ姿、ヨーコはスーツ姿。いい加減な格好の僕とはずいぶん違う。こっちは「着たきり雀」なので合わせようがない。ご主人は午前中まだ東京で学会があり、昼からの飛行機で高知に戻られたばかりとのこと。忙しい目をさせてしまったようで恐縮だ。津波警報で土讃線は昼から運休している。

「飛行機は大丈夫だったんですか。」

質問してから馬鹿な問いだと気付く。ヨーコ夫婦とは七、八年ぶりの再会だ。

彼らは僕を「司」という大きな土佐料理屋へ連れて行った。仲居さんに、掘り炬燵のある座敷に案内される。鯨肉の「はりはり鍋」を頼んであるという。A先生が、

「川合くん、ここで鯨を食ったことは帰っても余り他人に言わない方がいいよ。」

と言った。その通り、「環境保護団体」というよりも、今や捕鯨を目の仇にして撲滅せんとする組織、「シーシェパード」のメンバーにでも知られたら、狙撃されかねない。

ヨーコと僕は小中高と同級生である。昭和三十年代から四十年代、よく給食に「鯨肉」が出たが、あまり美味しいものだと思わなかった。今は鯨を食べる人も少ない。何故、日本が捕鯨を続けたがるのか、イマイチわからないところもある。

しかし、鯨肉は食ってみると、意外と美味しかった。舌はプリプリしているし、赤身も、脂身もそれほどクセがなくて美味しい。ずいぶんゼラチン質が多い気がした。それに大量の水菜を入れ、最後は餅とうどんを入れて食べるのである。そのほか高知特産「ぞろめ」(イワシの稚魚)「うつぼのたたき」(これも歯ごたえ十分)「四万十川青海苔の天ぷら」などがどんどん注文される。

「初物を食べると七十五日寿命が延びるというけど、これで百五十日寿命が延びました。」

といういつものお世辞を、おふたりに言っておく。

僕は、給仕をしてくれる若い仲居さんが何となく気になっていた。きれいなお姉さん。ヨーコも美人、でもやっぱりおじさんは若い娘に魅かれる。

「旅行記に書くから下の名前だけも。」

と聞いたけど教えてもらえなかった。問題は、A先生が仲居さんに、

「この人ロンドンから来たの。」

と言ったことだ。

「まあ、それにしては日本語がお上手ですね。」

と褒められる。一応、

「いや、それほどでもないです。」

と謙遜しておく。

 A先生は、引き続き別の約束があるらしく、

「後は、同級生同士、旧交を温めてください。」

そう行って先に出て行かれた。

 

レトロでなかなか素敵な「土佐電」。

 

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