瀬戸大橋を渡るアンパンマン列車
大人が乗るにはちょっと恥ずかしいJR四国のアンパンマン列車。
二月二十八日。昨夜から強い雨だ。昨夜晩飯を食い終わった頃、高知のヨーコから電話がかかる。
「こんな雨でも野球があるの?」
彼女は言った。高知は荒れ模様の天気だという。
ヨーコは一年に数回、日本の食料品を送ってきてくれる。いつも、なかなかユーモアに溢れた手紙が添えて。昨年の暮れも食料品の小包がロンドンに届いた。その中に彼女の長い手紙が入っていた。A四の紙にびっしり五枚。僕は今まで女性からそんなに長い手紙をもらったことがない。読み終わって、今度日本に帰ったら彼女に会ってみようと思った。
「ヨーコさんが長い手紙を書くということは、きっと会って話もしたいんじゃない?」
妻のお墨付きも出た。
おりしも「我が」阪神タイガースは二月の最終週、高知の安芸市でキャンプを張っている。二月の二十七、二十八の両日にはオープン戦もある。
「いっちょう、高知へ行って、真弓監督と選手達に『喝』を入れてくるか。」
と僕は高知行きを決意し、ロンドンからインターネットで二十八日の夜、高知のビジネスホテルを予約。
五時半に起きる。昨夜は酒と睡眠薬を控えたせいか、頭は比較的すっきりしている。六時十五分、結構強い雨の中を鞍馬口駅に向かう。まだ真っ暗。地下鉄で京都駅へ到着。高知往復の切符を買う。一万八千円。キオスクで漫画本とプロ野球選手名鑑を買う。ホームで七時二十六分の「のぞみ」を待つ。まだ辺りは薄暗い。
「のぞみ」は空いていた。一時間ほどで岡山に着く。そこから乗る「南風」は何と「アンパンマン列車」車体にアンパンマンが書いてあるだけでなく車内放送も
「ぼく、アンパンマン!」
で始まる。
特急といえどもわずか三両編成のディーゼルカー。同じく空いている。列車は児島から瀬戸大橋を渡る。橋を渡っている時間はわずか十分ほど。四国入り、多度津からから土讃線に入る。窓の外に大歩危小歩危の渓流がちらりと見える。カーブの連続の土讃線、「南風」は余り減速せずにカーブを曲がることのできる「振り子列車」なので、ちょっとジェットコースターに乗っているような気分。
十一時二十七分、高知着。阪神対オリックスの試合開始が十二時半なので、駅からタクシーで春野球場へ直行する。春野までは結構遠い。峠というか山をいくつか越える。タクシー代で四千円近くかかる。今日泊まるビジネスホテルが一泊三千五百円なのに。
タクシーの運転手中村さんは、昔カツオの一本釣りの漁師さんだったという。阪神タイガースのキャンプ中は結構選手や、元選手を乗せることが多いらしく、昨日はオリックスの浜中選手を、数日前に、昨年末で引退した赤星選手を乗せたと中村運転手言った。
「赤星さんって、背広を着ると、小柄で、全然野球選手に見えないんだよね。」
瀬戸大橋を渡る頃には天候も回復してきた。