クリスマスと正月

 

シャーマのお宅でクリスマスディナーの準備をする人たち。

 

「パリから大阪までは通路側の席にしてほしいんですけど。」

ロンドン・ヒースロー空港で、エールフランスのチェックイン係の女性に僕は言った。彼女は画面をしばらく眺めている。

「今日は団体さんが沢山おられて満員なんですよ。もう真ん中の席しか空いていませんね。どうしてもということなら、機内で客室乗務員にご相談ください。」

三人並んだ真ん中の席、クローストロフォービア(閉所恐怖症)の僕には非常に辛いことなのだけど、まあしゃあないか。飛行機に乗るなり、父から送ってもらった睡眠剤を飲んで、とにかく眠ってしまおうと心に決めた。

 久々の休暇、ひとりで日本に戻ることにした。二月二十四日から十日間休みを取り二週間の日本滞在だ。高齢の父も会いたがっているようだし。僕もそろそろ休みが欲しい頃だった。前回有休を取ったのは昨年の九月、妻とギリシアのサントリーニ島に出かけた。その時以来の休暇。

昨年暮れから新年にかけて、大きなプロジェクトがありずっと仕事が忙しかった。大晦日、元旦も三賀日も出勤した。しかし、それもようやく落ち着いてきた。

不況の影響で我が社の業績も芳しくなく、今年度はボーナスなし、昇給なし、残業手当なし。「残業手当なし」というのは「残業なし」とは意味が違う。残業をしても休日出勤をしても、残業手当は払いませんよということ。そして、その代わり休みを取れという。その代休が溜まりに溜まって、今回の日本行きの半分は代休で賄われることになった。

忙しい年末年始だったが、ヨーロッパに住んでいると、クリスマスだけはゆっくりすることができる。妻と長男は年末年始を日本で過ごすことになり、真ん中の娘ミドリは別に住んでいるので、家には僕と末娘のスミレだけ。静かなクリスマスだった。

十二月二十五日、クリスマスの朝は、娘のスミレとミドリと森の中を散歩した。雪の消え残る森の中の散歩はなかなか良い気分。

その日の午後は、スミレの友人、ヌシのお宅で過ごした。初めての英国の家庭でのクリスマス。僕達だけではなく何組かの客が招待されていた。ホストはヌシのお母さんのシャーマ。大勢の客を相手に大活躍だ。

クリスマスディナーを食べ、三時になったらテレビで女王のスピーチを聴く。そして夕方六時からは人気テレビドラマ「ドクター・フー」を見る。その後ゲームをやって、クリスマスプディングを食べて・・・シャーマのお宅では、何十年も、毎年同じことが繰り返されているらしい。

僕は、子供のころの京都の家で、正月に毎年同じ儀式が行われていたことを思い出した。大晦日には紅白歌合戦を見て、元旦には親戚がうちの家に集まりすき焼きを食べる。子供たちはお年玉を楽しみにしている。三日は、父の姉の家にまた親戚が集まり、またすき焼きを食べるのだが、今回は「かしわ」(鶏肉)のすき焼き、伯父が丸々一羽を自分でさばいておられた。幼い僕には、そんな正月の儀式が永遠に続くように思われたものだ。

 

パーティーは続く、夜も更けて寛ぐ人々。

 

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