アジア人の演じるアジア人

 

並行して進む、若い二人のロマンスのストーリー。ふたりは宮廷からの逃亡を企てるが・・・

 

「シャル・ウィ・ダンス」。やっぱり日本語の歌詞は、意味と雰囲気を両方伝えるように、上手に訳してある。さて、ダンスを習い始めた王様は、ふたつのことに気付く。最初に、

「ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー」

と数えながらやっているが、何故か合わない。

「そうだ、ワン・ツー・スリー、アンド、ワン・ツー・スリー」

間に一拍置くようにしてからピッタリと合うようになる。

「この前、あんたがあの男(英国大使)と踊っていたとき、こんな手のつなぎ方をしていなかったよな。」

それまで、アナと王様は両手をつないでいた。王様はアナの腰に手を副える。アンナの少し躊躇し、それを受け入れる表情がたまらない。そしてふたりは舞台いっぱいに踊り回る。本当に、東西の文化が溶け合い、相互理解が深まった感動的なシーンである。

「シャル・ウィ・ダンス」というこの曲、余りにも有名になりすぎて、曲名だけが一人歩きを始めた。このタイトルで、日米でほぼ同じ内容の映画が作られている。日本版の映画は、「Shall we ダンス?」というタイトル。「ダンス」だけが片仮名。役所広司の演じるさえない経理課長が、社交ダンスに目覚めるお話。楽しい映画だった。リチャード・ギアが演じた米国版は、日本版のリメークだという。

前回、二〇〇〇年舞台とは演出が全く違う。もちろん、台詞、歌詞、音楽等は同じだが、振り付け、舞台装置などはずいぶん違っていた。前回の演出は、アジアという雰囲気を出そうと、赤い色を基調にした舞台装置で、両側にゾウがあしらわれていた。演出も舞台装置も、エキゾチシズムを強調した、ちょっとキッチュなものだった。今回の舞台は、ずいぶんシンプルである。王の宮殿のシーンも、柱が立ち並び、向こう側に塀が見えているだけ。最初はちょっと物足りない気がしたが、そのうちに好感が持てた。

アナ役の、ケリー・オハラさんであるが、ちょっと年増の女性。首筋の皺で、それほど若くないことは分かる。年齢は四十二歳とのこと。まあ、アナの役柄も、十一歳くらいの息子がいるので、役を演じる上では適齢と言える。そして、彼女の声は「素晴らしい」の一言。自然で透明感のある歌声だった。彼女はこの演技で、トニー賞の主演女優賞に輝いている。なるほどと思ってしまう。

そして、最も注目すべき渡辺謙さんの演技であるが・・・やっぱり、アジア人の演じるアジア人は自然で、安心して見ていられる。これまで見た舞台や映画は、ユル・ブリンナーも含めて、米国人が、つまりキリスト教徒が、アジア人、仏教徒を演じていたわけだ。つまり、非アジア人が、カリカチュアライズされたカッコ付きの「アジア人」を演じていたわけである。タイ人と日本人は違うとは言えアジア人。やはりアジア人の演じるアジア人は「自然」である。渡辺さんがどれだけ英語がお上手かは知らないが、わざと下手な英語を話していない、自然なアジア人の英語が新鮮だった。(これまでの俳優は、わざと下手に話していたから。)

 

これまでの王様役で、一番「自然」だと感じた渡辺謙さん。この渾身の演技を毎日三か月続ける、大変だと思う。

 

 

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