ウナギ
差し込む太陽の光で、独特の水の色を見せるメリサニ洞窟。
七日目、翌日は午前中にケファロニアを発つので、実質的な最終日。僕たちは、車でメリサニ洞窟に向かった。ポロスから糸杉の生える山道を通りサニへ。洞窟はその近くだった。この洞窟も、ケファロニアの「必見スポット」に入っている。昔は普通の鍾乳洞だったのだが、ある時、天井が落ちてしまった。空の見える鍾乳洞とでも言うのだろうか。下には水が溜まっており、そこをボートで巡るのだそうだ。
一時間ほどで洞窟に着き、入場料八ユーロを払って、地下に降りる階段を通って、洞窟の中に入る。小さな桟橋が作られていて、そこから客は小さなボートに乗って、洞窟を回る。空の色を写した水がエメラルドグリーンとでも言うのだろうか、不思議な色をしている。まだ天井が残っている部分もあり、細い水の回廊を通って、そこへも案内してくれる。
「ここにウナギがいますよ。」
と船頭のお兄ちゃんが言った。水の中を見ると、明るい水の底に、太さが十センチ、長さが一メートルを超える黒いウナギが横たわっていた。
「ヨーロッパウナギは太いんや。」
僕は思い出す。日本語学校の教材で、今学期「ウナギのなぞを追って」というテキストを選んだ。生物学者の塚本勝巳先生が、ウナギの産卵場所を突き止めるまでの苦労を書いたお話。日本の小学国語の教科書に載っている。そのときに、僕もウナギの生態について勉強した。ギリシアのウナギは、どこで卵を産むんだろう考える。確か黒海だったような気が。部分的に太陽光の差し込むメリサニ洞窟は、場所によって微妙に色が違い。そのコントラストが美しい。
その後、僕たちは山を一つ越え、アンティサモスという、これもケファロニアでは有名な海岸に行った。結構観光地化しており、ずらりと「浜茶屋」があり、その前にデッキチェアとパラソルが等間隔に並んでいる。僕たちは、少し離れた場所の、木の下に陣取る。そこで、サンドイッチを食べて、その後は・・・ひたすら泳いで、飽きたら、浜に上がって、中国語の勉強。ここも、水の透明度が素晴らしい。どこもそうだが、水の中にも、浜にも、一切ゴミが落ちていない。それと、背景の山が木で覆われているのも良い。この辺りが少し日本と似ている。緑の山をバックに泳ぐというのも良い。
結局、ケファロニアではどこで泳いでも良いのである。ケファロニアの魅力、それは「きれいな海」しかないと思う。他に見当たらない。つまり、メニューが一つしかないレストランのようなもの。しかし、その一品で十分勝負が出来て、客が呼べるレストラン。それを食べに、わざわざ遠い所から人がやってくる店。それがケファロニア。これまで、色々とギリシアの島を訪れたが、「海」という一点に絞れば、ケファロニアに優る場所はないと断言できる。この場所が、このままで、ずっと存在して欲しいと思う。そして、誰もが時々この場所に来られるように、社会が再び安定することを祈りたい。
珍しく緑の多い、アンティサモスの海岸。人気スポット。