保証された晴天
海の見えるバルコニーで飲むビール。この世の至福でございます。
旅行前、飛行機が飛ぶかどうかの心配はしたが、天気の心配は全然していなかった。夏のギリシアは晴天が「保証」されているのだ。
「休暇中雨が降ったら料金はお返しします。」
という旅行会社があっても、その会社が損をする心配はない。地中海性気候のギリシア、夏は雨が降らない。そして、まさにそこが、ギリシアが英国人に人気のある理由である。ケファロニアを訪れる客の八十パーセントは英国人であるという。一週間しか取れない休暇、誰もが晴れて欲しいと思う。そして、それが確実であるというのは嬉しい。英国内の休暇だとそうは行かない。コロナでの入出国規制があったので、ここ二年間は国内のウェールズやコーンウォールなどの海辺で休暇を過ごしたが、一週間のうち二日か三日は雨に見舞われた。
ケファロニアの空港に着いたが、荷物がなかなか出てこない。荷物を受け取るまで一時間半ほど待った。それでも、全然腹が立たない。
「ここに来られただけでラッキー、何があっても許しまっせ。」
と、極めておおらかな気分。ケファロニア空港は小さな飛行場。そこに今日は、英国各地から休暇客を満載した飛行機が飛来するのだから、荷物係もてんてこ舞いなんだろう。
ギリシアの島での休暇も、これで何度目だろう。それで大体勝手が分かっている。旅行会社を通じて、パッケージ・ホリデーに申し込むと、七泊八日か十四泊十五日がひとつの単位になっている。例えば、木曜日に出て、木曜日に帰るとパターン。これは、ホテル側と、航空会社側の事情によるものが大きい。一斉に客が飛んでくれると、飛行機の座席も埋めやすいし、客が一斉に入れ替わってくれると、ホテルも回転が良くなるのだろう。今日、木曜日は、ケファロニアの客が入れ替わる日なのだ。
荷物を受け取った僕たちは、旅行会社の用意したバスに乗り、スカラという町に向かう。右手にずっと海が見えている。早く海に飛び込みたいという欲求に駆られる。スカラにはいくつかリゾートホテルがあり、そこで順番に客を降ろしていく。僕たちが最後で、四組の家族が、「アポストラタ・リゾート・アンド・スパ」でバスを降りた。何と五つ星ホテル。
チェックインを済ませ、部屋に通される。
「海や!」
娘たちと僕たち夫婦の部屋は隣同志。バルコニーがあり、その向こうに海が広がっている。青い海に、一隻のモーターボートが白い航跡をつけている。
「早く、バルコニーで冷たいビールを飲みたい!」
荷物を置いた僕たちは、ホテルのマイクロバスで、スカラの町の中心に(村かな)、ビールを買いに出かけた。スカラの街の前には、砂浜が続いている。どこでも泳げる。僕たちはとりあえず、バスを降りた場所から近い砂浜に出て、海に飛び込んだ。そこで僕は言った。
「プファー!」
青い海に筆で線を引くようにモーターボートの航跡が引かれる。