雨の降る日は良い天気
いつも寝転がって本を読んでいたソファから、リビングルームを望む。
三月二十四日、木曜日。今日はロンドンに戻る日だ。昨夜G君と高校の同級生の消息について寝る前に話をしたら、夢の中に同級生が何人か登場した。最近の顔や様子は知らないので、登場する同級生は皆若いままだ。
今日も小雨が降っている。昨日S隊員が、
「こちらの人って、雨が降ると『嬉々として』雨の中を歩いていますよね。」
と言った。本当にそうだ。雨の少ないヨルダンでは、「雨の日」が「良い天気」なのだ。皆傘を差さないで楽しそうに歩いている。
七時半にG君と一緒にアパートを出て、歩道橋の下で彼と別れる。雨の中、スーツケースをゴロゴロと引っ張りながら歩いていると、横をタクシーが次々と停まり、
「乗っていかないか?」
と聞いてくる。それを断りながら、空港バスのバス停へ向かう。時刻表がないので、何時来るとも分からないバスをのんびりと待つ。また何台かタクシーが僕の前に停まる。十五分ほどすると、一台のマイクロバスが僕の前に停まった。
「空港へ行くけど。」
と運転手が言う。
「いくら?」
と聞くと、三JDとのこと。余り変なものに乗りたくないと思って中を見ると、ひとりの兵士と若い女性が乗っている。
「兵隊さんと女の人が乗るくらいだから安全なのだろう。」
と判断し、そのマイクロバスに乗り込む。途中で何人かを乗せたり降ろしたりしながら、四十分ほどで「クイーン・アリア空港」に到着。出発までまだ二時間以上ある。金もないので、本を読んだり、免税店を冷やかしたりして過ごす。もし有り金を全部使ってしまった後、飛行機がキャンセルなどになったら、アンマンの街までも戻れないもの。
幸い飛行機は定時、十一時に飛び立った。機内のビデオで「ツルー・グリッド」というアメリカ映画を見る。アカデミー賞の作品賞の候補になったというので期待して見たが、とんでもない凡作。なぜこれがアカデミー賞なのか、いつもながら米国人の美意識には、ついていけない思いがする。
ともかく、今回、ヨルダンの旅では、旧友のG君に大変なお世話になった。心からお礼を言いたい。また、S隊員をはじめ、ヨルダンで働くJICAのボランティアの皆さんからは貴重なお話を伺った。どなたか、この旅行記を読む機会を持っていただき、僕の感謝の気持ちを知っていただければ幸いだ。皆様の健康と活躍を祈りたい。
ロンドン時間の三時前にヒースロー空港に着陸。妻の出迎えで家に戻る。帰ると大学が春休みに入った末娘のスミレがダーラムから戻っていた。一週間ぶりにピアノを弾く。久しぶりにピアノを弾くと、指だけではなく、頭の中の細胞もピキピキと音を立てた。
雨の中をロンドン行きの飛行機はアンマンを飛び立った。