風呂上りの気分
トルコ風呂の玄関で。何となく雰囲気が日本の銭湯に似ている。
トルコ風呂では、コースに従って次々と違う風呂に入って行く。大理石の床暖房浴の次はジャグジー、その次は、サウナに送られる。サウナの中はもう十分熱いのに、お兄さんがストーブの上に水をかけて、水蒸気を発生させる。熱い石に水がかけられ、「ジュワッ」という音がする度に、「モワッ」と熱波が押し寄せる。サウナが終わると水風呂。そのとき、お兄さんが飲み物を持ってきてくれる。水分の補給は重要である。その後蒸し風呂に入り、また飲み物を取り、しばらく休憩した後で、垢すりとマッサージに呼ばれる。
手術台のような一畳ほどの大理石のテーブルの上に寝かされる。僕の相手をしてくれるのは、シリアのダマスカスの出身のモーラという男性。サダム・フセインのような髭を蓄えた、四十絡みのおじさんである。彼自身も上半身裸で、下に赤いサッカーパンツを穿いている。そして、なかなか筋肉質の良い身体をしている。
彼は、目の細かいサンドペーパーのような袋を手にはめ、僕の腕を擦り始めた。二週間前に背中の瘤を取る手術をした僕は、その傷がまだ背中にある。傷口を指して、
「ここは触らんといてね。」
とモーラに言う。手術の後、僕はシャワーを浴びてはいたが、風呂には入っていなかった。そのせいだろうか、垢が出るわ出るわ。直径七、八ミリのミミズのような垢が、腹や背中からどんどん出た。これだけの量の古い皮膚が、身体にこびりついていたなんて、とても信じられない。垢を集めて計量すれば確実に百グラムはあると思う。
石鹸を着けたスポンジで垢を洗い流した後、マッサージがある。昨年の暮れに、マレーシアでもマッサージを受けたが、それに比べるとかなり手荒い。時々、
「痛てて。」
と叫んでしまう。
最後にシャワーを浴びてお終い。時計を見ると、入ってから一時間四十五分経っていた。服を着て、待合室に戻ると、茶が出た。茶を飲みながら、
「いや〜、清々しい、正に一皮向けたような気分やわ。」
と僕はG君に言った。本当に、身体だけでなく気分も軽くなったような気がする。一回の値段は二十JD、三千円近くと決して安くはないが、この爽快感は癖になる。G君が定期的にここを訪れる気分もよく分かる。
七時半頃風呂屋を出た僕達は、食事に向かう。途中、民芸品店に入って、家族への土産を買う。娘のミドリには「ファティーマの手」、「ファティーマの眼」を買う。青い色をした、壁に吊るす飾り物だ。ファティーマはモハメッドの娘で、その「手」と「眼」を吊るしておくと、魔よけになるとのこと。妻には「死海の塩」を買った。これで身体を擦ると美容に良いという。
明日は、G君と死海までドライブをすることになっている。彼は車を持っていないので、車を運転手付きで借りることになっている。
これがファティーマの眼とファティーマの手。ちょっと不気味ではある。