旅情
出勤前に撮ったホテル、エリーゼンホフ。夜明けの青い光が美しい。
ホテルでの朝食。僕がこのホテルを気に入っているもうひとつの理由は、朝食にハムやチーズだけでなく、「魚」という選択肢があることだ。その日も、スモークド・サーモンとニシンの酢漬けを黒パンの上に乗せて食べる。コレステロール値の高い僕には、嬉しい朝食。ホテルの外に出ると夜明けだった。辺りが真っ青な光に包まれ美しい。
その日も、仕様書の作成、プログラマーから上がってきたプログラムのテスト、自らプログラムの作成、ミーティング、それに新人の教育と忙しかった。
最近は出張に行くとき、ノートブックパソコンを持ち歩いている。それを社内ネットワークにつなげれば、ロンドンのオフィスにいるときと全く同じ環境で働ける。昔ならば、出張中、本来のルーチン仕事を放っておけばよかったのだが、今は、日常業務をこなしながら、出張先での仕事もこなしていかねばならない。これは結構大変。しかし、出張から戻って、仕事が山のように溜まっている状態がなくなったのは、良いことかも知れない。
ロンドンの同僚とのやり取りは、大抵メールやチャットでやってしまう。しかし、たまに電話で話さねばならないことがある。これが要注意なのだ。僕はこちらではずっとドイツ語で話しているだけでなく、ドイツ語で考えている。突然机の上の電話が鳴って受話器を取ると英国の同僚。ついつい英国人にドイツ語で話してしまっている。ドイツ人に間違えて英語で話しかけても通じるが、その逆はまず通じない。今日も、上司のアンディと話しているとき、
「モト、きみの言ってること分からないんだけど。それドイツ語じゃないの。」
と言われてしまった。
「ありゃ〜、またやっちゃった。」
本人は全く無意識、全然気付いてないのである。どうも、僕の頭の中では、ドイツ語と英語は一緒の「引き出し」の中に仕舞われているらしい。
あっという間に昼になり、次に気が付くともう午後五時。その日の夜は日本人のA部長とN次長と一緒に、デュッセルドルフの日本レストランで食事をすることになっていた。六時にホテルに車を置き、N次長の運転でデュッセルドルフに向かう。
その夜は、「インマーマン・シュトラーセ」、通称「日本人通り」の串焼き屋でビールと焼酎を飲んだ。美味しかったはずなのだが「偉いさん」のお供は何となく気が張り、肩が凝り、後で何を食べたのか思い出せない。部長と次長はデュッセルドルフにお住まいなので、ゆっくりと飲んでおられるが、僕はメンヒェングラードバッハまで戻らねばならない。九時前に店を出て、歩いてすぐ近くの「ハウプト・バーンホフ」、中央駅へ向かう。
中央駅からメンヒェングラードバッハ行きの電車に乗る。駅で電車の時間を調べている時、その前後に長距離の夜行列車が何本か出ていることを知る。ワルシャワ行きとか、コペンハーゲン行きとか、ウィーン行きとか。それらに乗って、遠くへ行きたいという衝動にかられる。「夜汽車」でしかも「国際列車」、二重の意味で旅情を掻き立てられる。
ドイツ国鉄の誇る、特急列車ICE (InterCity Express)