美人と唐辛子の国、韓国
インチョン空港での辛口海鮮ラーメン。なかなか手強かった。
ノロウィルスから立ち直った二週間後の三月二十二日、僕はアシアナ航空機の中にいた。ロンドンを発ち、ソウルのインチョン空港経由で、関空に向かうことになっている。
韓国の航空会社のスチュワーデス、いやキャビンアテンダントのお姉さま方は皆一応にお若くて、お美しい。肌が滑らかだし、後ろでお団子のように結んだ黒髪が清潔感を醸し出している。僕の席のすぐ横がキャビンアテンダントの座るジャンプシートで、そこにお座りになったのは、若い頃の中野良子を思い起こさせる美形のお姉様。
「韓国と日本は時差ないんですか。」
なんて、本当は知っている質問をわざとして、一言二言彼女と話す。
午後九時の出発。真夜中に「夕食」が出る。例によってビビンバ。乗る前に夕食は食ったし、ほとんど手を付けない。僕はいつの頃からからか、機内食を食べなくなっていた。一度ひどく脂っこいものを食って吐いて以来だと思う。両隣の男性は、野菜にご飯を混ぜて、それに「コチジャン」(唐辛子味噌)をかけて、グチャグチャと混ぜている。スチュワーデスにコチジャンのお代わりをしている人たちもいる。ちょっと〜、それやり過ぎとちがう。
インチョンまで十時間の飛行。睡眠薬を飲んで、最初の六時間ほどはウトウトしてすごす。残りの三時間余、本を読む元気もない。ボンヤリして過ごす。左隣、窓側の男性は、出された物を全て美味しそうに平らげ、ずっとヴィデオを見ている。右隣、通路側の青年は、ずっと眠り続けている。
夕方にインチョン空港に到着、改めて食事をする。アジアでの空港では一般的な、先払いして番号札をもらい、自分の番号が電光掲示板に出たらカウンターに貰いにいくという形式の食堂。シンガポールでも、クアラルンプールでも、空港の中の食堂は、皆この形式だった。ラーメンかうどんが食いたい。食券売り場で、
「ヌードルスープある?」
と英語で尋ねる。
「海鮮ラーメンがありますけど。」
と食券売り場のお姉さんが後ろの写真を指して言った。
「じゃあ、それにします。それと、ハイネッケンビールを一本。」
「スパイシーのと、それほどスパイシーじゃないのと両方ありますけど、どちらになさいますか。」
辛い料理の好きな僕は、一も二もなく、「スパーシー」のほうを選んだ。英国では、「ホット」、「スパイシー」と言っても、全然辛くないのである。しかし、韓国の基準は違っていた。出てきたラーメンのスープの辛いの辛くないのって。
姪のカサネは、韓国が好きで、こちらに何人か友人がいる。しかし、その友人たちの家で、家庭料理をご馳走になるのは、避けていると言っていた。韓国通の彼女にとっても辛すぎるという。韓国人の辛さの基準は、日本人の一枚も二枚も上にあるようだ。
「韓ドラ」を見ながら、関空行きの飛行機を待つ。言葉が分からなくてもストーリーが追えるのが良い。