サギに遭った
老いも若きも鴨川の朝の散歩を楽しんでいる。
「京都の天気はどうやったん?」
母に聞いてみるが、連日、三十八度から三十九度の間であったとのこと。京都にいると、昼からはエアコンをつけて、部屋に籠っているしかない。本を読んだり、絵を描いたり、ピアノを弾いたり。
「でも、ボチボチ動かんと。」
英国に戻った翌週から、「ホース・サンクチュアリ」(捨て馬保護センター)のボランティアを半年ぶりに再開することになっていた。肉体労働のために、日本にいる間に、ある程度身体を慣らしておかないと。
松江から帰った翌日から、僕は朝歩くことにした。五時半に母の家を出て、鴨川まで行き、西岸を北山橋まで行き、東岸を出雲路橋まで戻り帰って来るという六キロ半のコース。朝の五時半だと気温は二十七度か二十八度くらいで、汗は出るものの、まだ歩ける範囲だ。
鴨川べりの遊歩道を歩いていると、早朝にも関わらず、沢山の人が歩いたり走ったりしているのに驚く。年寄りも多いが、若い人も多い。犬を連れた人たちも大勢いる。考えてみれば、散歩ができるほど明るくて、比較的気温が低いのは今だけ。
「皆、考えることは同じなんや。」
と僕はつぶやいた。
鴨川には野鳥が沢山いる。鴨川というだけあって、小さなカモがたくさんいる。それらの鳥の中でも、ひときわ目立つ存在がサギの仲間である。「鴨川で観察できる野鳥」の立て札によると、鴨川では主に二種類のサギが見られる。白いのがコサギ、灰色がアオサギであるとのこと。英語では「ヘロン」。
僕の友人が罠にかかったサギを助けた男がいる。その夜、若い娘が、
「道に迷ったので泊めてください。」
とやって来た。泊めてあげると、その若い娘は、お礼に一部屋に籠って機を織るという。
「絶対に中を覗かないと約束して下さい。」
と言われるが、友人は好奇心に駆られて中を覗く。すると家具やお金、貴金属などが一切合切消えてしまっていた。
「しまった、サギに遭った。」
鴨川までの「散歩」帰り道にはもう太陽が昇り、朝日を背に受けて歩くと、かなり暑く感じる。七時ごろに戻り、シャワーを浴びた後、母の作った朝食を食べる。毎日、「ディナー」と言ってもいいほど、品数も、ボリュームもある朝食であった。
この朝の散歩を励行するようになって、夜の寝つきが、格段に良くなった。今回、日本に着いてから、眠ることに苦労していた。時差ボケもあるだろうし、気候の違いもあるだろう。夜、二時、三時、下手すると四時ごろまで眠れないで、辺りが明るくなってから眠るということもあった。朝の散歩は、運動不足の解消、生活のリズムの回復にとても役立った。でも、時差ボケが治ったと思ったら、もう帰る日が近づいていた。
白いサギは本当に美しい鳥、優雅。