アブラゼミはどこへ行った
友人のOくんと、鉾と山を廻る。結構道が空いている。まだそれほど暑くないし。
七月の京都の風物詩は「祇園祭」と「暑さ」。祇園祭は世界的に有名だが、京都市民が大勢見に行くかというと、そうでもない。うちの母たちは、もう三十年以上、見たことがないと言う。混んでいるし、暑いし。
「あれは観光客用のイベントどす。」
「テレビの中継見てた方が、よう見えるし、涼しおす。」
と言うことらしい。しかし、僕は、半分以上旅行者のようなもの。この季節に京都に戻ったとなると、やはり生で見たくなってくる。
それで、日曜日、「宵々々山」の日に、高校の同級生のO君を誘って、祇園祭の鉾と山を見に出かけた。O君と地下鉄の北大路駅で待ち合わせ、御池まで行く。O君も祭りを見るのは十数年ぶりだという。さすが京都市民。御池通と四条通の間に並んでいる鉾や山を一通り見た。その日の天気予報は雨。傘を持って行ったが、結局雨は降らなかった。その天気予報のせいか、人が少なくて見やすかった。そして、涼しいので歩き回るのも楽だった。翌日から、宵々山、宵山、山鉾巡行と進むにつれ、人出はどんどん増えていくものと予想される。
京都にいる間、僕は母の家の二階に寝泊まりしていた。翌日の月曜日から、母は一週間、教会主催のセミナーに通うことになっていた。九十二歳になって、まだ勉強しようという、意欲には脱帽。ということで、昼間は家に僕ひとり。母が勉強に行く日は、僕が夕食を作ることになっていた。夕食の準備をしてしまえば暇。英国の学校で日本語での入試の担当をしているが、来年度の課題図書を読んで、課題映画を見ていた。
一度は、継母の家に庭仕事に行った。一時間足らずの仕事、涼しい天気なのだが、Tシャツが絞れるくらいの汗が出た。継母の家からの帰り道、自転車で紫明通を走る。紫明通は真ん中が公園のようになって、木が生えている。涼しいせいか、セミの声が少ない。ときどき聞こえるのも、「シャーシャー」というクマゼミの声である。僕の子供の頃は、クマゼミは希少で、クマゼミを捕まえた子は英雄だった。「ジージー」となくアブラゼミが主流だった。耳を澄ますが、アブラゼミの声は聞こえない。どこへ行ってしまったんだろう。
十七日、水曜日は、祇園祭の山鉾巡行の日である。鉾や山のパレード。何十万人という人が見に来る。巡行が行われる四条通、河原町通、御池通には何重にも人垣ができて、ちょっとやそっとでは近くで見ることができない。二年前見に行ったので、その人の多さ、混雑は分かっている。
「でも、やっぱ、ちょっとは見ておきたいよな。」
僕には一つアイデアがあった。その日の昼前、僕は今度も高校の同級生のG君と、御池通に向かった。巡行のハイライトは、何と言っても、角で鉾や山を九十度回転させる「引き回し」。僕たちは、巡行を終わった後の鉾が、御池通から方向転換し、元あった通りに曲がっていくのを見た。なかなかの迫力。人垣も二、三重と比較的少なくて、何とか見ることができた。
御池通から新町通への引き回し。新町通が狭いので、とても難しそう。