松本城
篠ノ井線の車窓から見えた「日本鉄道三景」に選ばれた風景。あと二つは何処なんだろう。
「やっぱり松本に来てよかった。」
僕は呟いた。目の前には、松本城の天守閣が、堀の水面から、まさに「凛とした」佇まいでそそり立っている。これまで、日本の城は色々訪れたが、松本城はその中でも「ベスト」として推したいものだった。熊本城もよかったが、あちらは復刻版の鉄筋コンクリート造り、こちらは日本に十二しかない、江戸時代からの現存天守のひとつなのである。
「何て端正なお城なんだ。」
僕は感心した。
昨夜大宮で、僕は松本へ行こうか、仙台へ行こうかまだ迷っていた。どちらも行ったことがないし、どちらも大宮から鉄道で二時間ほどの距離である。Nさんの馴染みの店で一緒に飲んでいた地元の人たちのアドバイスも、
「男が独りで行くのはどっちが良いかな?甲乙つけ難い。あんたが何をしたいかによる。」
そんな雰囲気だった。
結局僕は松本を選んだ。泊めてもらったNさんのアパートから一緒に大宮駅に出て、そこでNさんと別れる。北陸新幹線「はくたか」に乗って約一時間で長野へ。そこで十五分の待ち合わせで、篠ノ井線、中央線経由、名古屋行きの特急「しなの」に乗った。長野県に来たので「信州そば」を食べたかった。それも何故か駅のホームで。長野駅のホームに「立ち食いそば」はあったが、まだ十一時前。僕はそばを、松本まで我慢することにした。
「眼下に広がる長野盆地、千曲川、棚田の風景は、鉄道から見える景色の『日本三景』に数えられています。」
という女性車掌のアナウンスが、長野を出て間もなくあった。僕はカメラを構える。列車は、篠ノ井線のきつい勾配を登っていく。確かに、車窓の風景は素晴らしかった。三十分ほどで、今度は下りにかかり、一時間弱で松本駅に着いた。
早速駅前のソバ屋で手打ちそばを食べる。ホームではないが。「蕎麦粉十割、つなぎなし」と触れ込みだが、ちょっとボソボソしている。もうちょっと安物でよかったかも。
松本城は駅から歩いて十五分ほどの距離にあった。松本城の基調は「黒」。天守閣は黒い木の板と、黒い瓦に覆われている。その渋い建物が青空に映えている。背景の山々とのコントラストも美しい。堀に面して立っているのも良い。天守閣の中に入って、説明を読む。この天守閣は、明治維新の際、取り壊しの運命にあったという。しかし、城を惜しむ人たちが資金を集めて買い戻し、取り壊しは免れた。その甲斐があって、今は国宝に指定され、日本人だけではなく、外国の観光客の目を楽しませてくれている。
すごく良い所なんだけど、ひとつ問題が。天気は良い。青空もきれい。気温は二度か三度くらいか。でも、アルプスの山々から吹き下ろす風の冷たいこと。強風を考慮すると、体感温度はマイナス二度から三度くらいだと思う。二時間ほど松本城にいたが、屋外作業に慣れているはず僕も、余りの寒さに、三時ごろにホテルに入ることにした。
松本城では、お姫様、侍の格好をした人たちが写真に入ってくれる。寒いのにご苦労さんっす。