バイバイ馬さん
寒いと、馬も世話をする方も大変。水道が凍るし、車ははまるし。
二月十五日、金曜日の昼過ぎ、僕は馬たちにしばしの別れを告げた。翌週から二週間の予定で休暇を取ることにしていた。昨年の十一月七日から、月曜日から金曜日まで、一日も休まず、この「ホースサンクチュアリ」（捨馬保護センター）働いてきた。クリスマスも、元旦も。一度風邪を引いたが、頭が痛くなっただけで幸い熱は出ず、働き続けることができた。最近は、僕が昼間働くことを前提に、全ての仕事が回っている。
「来週から、僕がいなくて、仕事が回るのかな。」
と少し心配になる。しかし、それを心配していたら永久に休暇が取れない。主宰者のジュリーが、何とかオーガナイズしてくれることを期待する。でも、只でさえ超多忙な彼女が、僕の分、もっと時間を割いて頑張るような気がするが。
「グシュッ、グシュッ」
馬たちの間からは、クシャミの音が聞こえる。今週は何匹もの馬が「ウマインフルエンザ」に感染して、クシャミやセキをしている。「ウマインフル」は届出伝染病なので、感染した馬の出た牧場は「隔離」される。牧場の周囲には、ロープが張られ、
「動物は入ってはいけません。」
という貼紙がしてある。犬やキツネがそれを読んで、入るのを思いとどまるとも思えないのだが。
牧場にインフルエンザを持ち込んだのは、三頭の「新入り」。先週、例外的に土曜日も働いたとき、
「これから捨て馬を三匹連れてくるんだけど、モトも一緒に来ない？」
と、ジュリーに誘われた。大いに興味はあったのだが、そのときもう三時間働いて、腹も減って、かなり疲れていた。
「やめとく。」
と言って、行かなかった。月曜日に牧場へ行ったら馬が三頭増えていた。その三頭のうち誰かがインフルエンザを持ち込んだらしい。しばらくして、牧場のあちこちから、聞き慣れない音が聞こえだした。馬たちのクシャミだったのだ。
「調子の悪そうな馬がいたらすぐ連絡してね。」
というジュリーのメッセージで、いつもより注意深く馬たちを観察したが、幸いにして、それほどしんどそうな馬はいなかった。もうひとつ幸いなことに、「ウマインフル」は人間には感染しないと言われている。周囲でどれほど馬さんたちがゴホゴホ、ゲホゲホしていても、まあ安心というわけだ。
金曜日に馬牧場から家に帰ってまずすることは洗濯。ジャケット、ジーンズ、セーター等、馬牧場では専用の服を着ている。金曜日になったら本当にドロドロ。特に冬の間は、雨や雪が多く、下がぬかるむので汚れる。家に戻り、下洗いをしてから、それらを洗濯機に投げ込み、洗濯機をスタートさせる。金曜日は午後仕事がない。ビールを飲んで、昼飯を食ってゆっくりできる。明後日から休暇、僕は、普段にもまして、くつろいだ気分になっていた。
まあ、それでも、皆可愛いので何とか続けていますが。