大先輩に会う
ほぼ半世紀ぶりに、京阪墨染駅に降り立つ。
「ええカメラ持ったはりますなあ。」
僕とU子さんは、疎水の橋の上で、グレーのスーツを着た、身なりの良い老人に話しかけられた。僕は愛用のニコンの一眼レフを首から下げていた。「母校を見に行こう」というU子さんの提案で、その日の午後、僕たちは四条から京阪電車に乗り、墨染駅で降り、昔の記憶を頼りに、ふたりの学んだK大学付属高校に向かって歩いていた。僕が最後に母校に来たのは、卒業した翌年、今から四十年以上前。U子さんもほぼ同じ。駅から歩きだしたものの、あまり確信があるわけではない。話しかけられたのを幸い、その老人に聞いてみる。
「あのう、付属高校に行くの、この道でいいんですか。」
と僕。
「私たち、付属高校の出身で、久しぶりに訪ねてみようと思って。」
とU子さん。
「あんたら、付属の出身かいな。わしもそうや。わしの子供も孫もそうや。」
てなことになり、思わず大先輩に出くわしたことに気付いた。その老人、八十八歳のMさんと一緒に、高校の近くまで歩く。
「あんたらが行っとった頃の正門は、今裏門になり、閉まっとる。墨染通りから右に入ったところが、今の正門や。そっから入りなさい。」
僕たちはMさんに礼を言い、墨染通りに出て、高校の門を潜る。
「不審者を見たら通報ください。K大学付属高校」
という看板が立っている。
「僕たち、完全に不審者やで。」
とふたりで言いながら、中に入っていき、そこにおられた守衛さんに、
「僕たち卒業生なんですけどお・・・見学させてもらっていいですか?」
と、おずおずと聞いてみる。意外とあっさりオーケーが貰え、僕たちは住所、氏名、電話番号を訪問者リストに記入し、「見学者」と書かれたバッジを貰い、中に入った。
「教室の中にだけは入らんといてください。」
と守衛さん。
「は〜い、分かりました。ありがとう。」
「わあ、全然変わってへん。」
とU子さん。高校の建物は、基本的に四十年前と変わっていなかった。「メディアセンター」なる建物が新たに出来ていたくらい。僕たちは、何人かの生徒さんとすれちがったが、皆、
「こんにちは!」
と気持ちよく挨拶してくれた。建物の周囲にはたくさんのキンモクセイがオレンジ色の花を咲かせていた。匂いが分からないのが、ちょっと残念。
母校の校舎はほとんど変わっていなかった。