医者のはしご
秋祭りの季節、日曜日に神輿を担ぐ人々。
「『医者のはしご』してきま〜す」
京都に着いた翌朝、僕は母にそう言って家を出た。その日は、内科、耳鼻咽喉科の医者を訪れると、前から決めていたのだ。僕は日本に戻った時、「かかりつけ医」のT先生のところで、いつも健康診断を受けている。今回も、まずT医院。それと、ここ数年、匂いを感じなくなってきていた。それで、耳鼻科に行こうと考えていた。内科検診は、心電図などを撮ってもらって、一時間くらいで終了。去年手術を受けた心臓は、ちゃんと動いていた。その後、近くの耳鼻科へ行くが、そこは断層撮影をする設備がないので、少し離れたクリニックに回されることになった。そのクリニックの予約が三時半に取れた。その時間まで、鴨川の畔にある継母の家で過ごす。父は、離婚して、再婚しているので、僕には母が二人いるのである。
継母と一時間ほど話した後、クリニックへ行って検査と診察。
「匂いのほうは、もうダメかもね。」
と暗に、医者に言われた。とりあえずは、薬で治療を試みるらしいが。
ともかく、一日を自分の健康管理のために使えてよかった。
「どうして英国で医者に行かないの?」
と尋ねる方がいるかもしれない。確かに、英国にもNHSという医療システムがあるのだが、「家庭医を通さないと、専門医に見てもらえない」というルールがある。耳鼻科の医者に診てもらいたくても、先ず、家庭医に話をして、家庭医から耳鼻科の専門医に連絡してもらって、予約が取れるというシステム。英国で。何時診てもらえるか分からない専門医の連絡を待つより、日本にいるときに、専門医に直接行く方が手っ取り早い。英国の医療システムにも、それなりに良い所もある。僕は、何度も英国で入院して、手術を受けたが、それなりに機能していると思った。しかも無料。病院で財布を開くということは必要ない。ただ、待たなければいけない。それが問題。
今回、京都滞在中、学校の仕事はないのだが、いくつかのオンライン・レッスンをする必要があった。ひとつは、僕が日本語を教えるレッスン。もうひとつは、僕が、中国語か、ドイツ語を教わるレッスンである。京都に着いて三日目に、揚老師(ヤン先生)の中国語のレッスンがあった。「老師」と言っても、僕より二十歳以上若い女性。中国では、どんなに若くても、「先生」は「老師」(ラオシュ)。
「あれ、モトさん、今日は背景が違うわね。どこにいるの。」
「今、京都の母の家です。」
ヤン先生は、中国の深圳(シェンジャン)に住んでおられる。
「三日前、先生の家の上を飛行機で飛びましたよ。」
深圳は、香港のすぐ近く。フライトマップを見ていると、飛行機は町をかするように飛んでいた。
その日からプロ野球の「クライマックス・シリーズ」(CS)が始まっていた。幸い、地上波での放送があったので、僕は阪神・広島戦を見ていた。阪神タイガースが勝ち、気分が良いはずなのに、その日の夜も簡単に眠りにつけず、三時ごろまで起きていた。
眠れない夜、久々に絵を描き上げた。