無人の空港
英国でもすっかり日が短くなり、仕事を終えてテムズ河を渡るころには夕闇が迫る。
「無人の空港・・・」、コロナ禍の最中に日本に帰った時も、僕は無人のヒースロー空港にいた。しかし、今回は意味が違う。
二週間の秋休みを前に、最後の授業が終わった翌日の月曜日に、ヒースロー空港から飛行機に乗った。キャセイ・パシフック航空のチェックインは極度に自動化が進んでおり、自分でチェックインして、出てきたラベルを自分で荷物に結び、自分でコンベアに乗せて、自分でバーコードをスキャンする。通常、チェックインカウンターにはずらりと職員が並んでいるが、ここでは、数人が、戸惑っている客を手伝っているだけ。
今日はもう夕方だから、ビールが飲める。前回は、朝五時だったから、ビールはちょっとためらわれた。搭乗を待つロビーのパブで、ビールを飲む。これから「長くて短い」一日が始まる。今日は十月十五日だが、僕にとって十六日は十六時間しかない。しかし、その日は長い旅の日なのだ。今回、ロサンゼルスから来て、京都で会うことになっているU子さんから、すでに京都に着いたというメールが来ていた。
午後七時半に搭乗するが、ここでも、パスポートを機械にかざすだけ。人に見せる必要はない。本当に、キャセイは、見事に自動化された、無人化された飛行機会社である。
キャセイの、香港行、エアバスの座席は、エコノミーでも、他の会社に比べて、足元の感覚が五センチ以上広かった。これはなかなかいい。足を伸ばして寝られる。この航空会社を利用するのは初めてだが、これなら、今後も御贔屓にしたいと思う。隣の席は、韓国に出張に行く、航空エンジンメーカーのエンジニア。飛行機エンジンの今後について聞いてみる。水素エンジンの可能性についても尋ねてみるが、燃料タンクがすごく大きくなるので、非現実的だと彼は言った。
飛行機は定時、午後八時半に離陸。睡眠剤を飲んで、ひたすら眠る。目を覚ますと時計は六時半を指している。目的地、香港の時間では、午後一時半。飛行機が付くのが三時半なので、残り二時間になっていた。飛行機は、午後三時四十五分に香港国際空港に到着。次の関空行の便が四時半発なので四十五分しかない。荷物検査等を通過し、搭乗口についたのはゲートの閉まる直前だった。
「これじゃ、荷物の積み替えは無理かも。」
僕は覚悟した。これまで、乗り換えがギリギリになったとき、人は間に合っても、荷物は間に合わないことが多かった。しかし、三時間後、関空に降りたとき、預けた荷物はちゃんと出てきた。香港で、四十五分の間に無事積み替えてくれたのだ。感謝。
飛行機は午後十時前に関空に着き、荷物を受け取って外に出たときは十時半ごろだった。この日の旅は、ひとまずここでお終い。もう京都へ行く電車は出ていないし、レンタカーで行くにも疲れすぎている。僕は、空港にホテルを取っていた。僕は、スーツケースを乗せたカートを押しながら、歩いて一分のホテルに向かう。
牧場での仕事も、ぬかるみに足を取られながら。