久々のパブ
パブによってはカウンターで買えないでテーブルサービスだけの店もある。(スカイニュース、サイトより)
僕は七月四日を結構楽しみにしていた。米国の独立記念日だからではない。その日、実に三カ月と十日ぶりにパブが開くことになっていたからだ。数日前から、外からパブの中を見ると、ずっと暗かった店の中にまた照明が点き、何か準備がなされている。おそらく、新しいルールが適用されるので、その対応なんだろう。
英国人はパブが好き。これは英国の文化の一つと言える。居酒屋でも、飲み屋でもない。「パブ」は「ハブ」。ここ十年ほどで、経営が苦しくなったのか、パブの廃業が相次いでいる。しかし、まだ殆どの通りや、村に一軒はある。僕は一人でもパブに入る人。ビールを飲みながら本を読むのが好き。ロックダウン期間中もビールは飲んでいた。しかし、缶ビールか瓶ビール。樽から注いだ生ビールは、味が違う。もう、三カ月以上飲んでいない。
ただ、僕は土曜日からパブに行って飲めるとは思っていなかった。
「おそらく、どのパブもメッチャ混むだろう。」
というのが僕の第一の予想。三カ月ぶりなので、僕のような人間が、開店と同時にドッと押し寄せると踏んでいた。
「おそらく、どのパブも入場制限をするだろう。」
というのが僕の第二の予想。二メートルの「ソーシャル・ディスタンシング」を保つために、入場者が制限されるだろう。その結果、パブの前に長い列が出来ることが予想される。初日はちょっと無理かなと思った。スーパーや銀行に入る際の列には慣れていたが、並んでまでパブに入るというのは、ちょっと抵抗があった。
さて、その日は土曜日、僕は午後ロンドンのチェルシーに仕事に出掛けた。車が混み始めていたので、その日は地下鉄とキックスクーターで行った。地下鉄の中は、マスク着用が義務付けられている。街中をキックスクーターで走っていて気付いたのが、全部のパブがその日から開いているわけではないということ。「来週からリオープン」と張り紙をした店や、まだ単に「クローズ中」とだけ書いた店が半分くらいある。
仕事が終わって、夕方六時半ごろ、スローン・スクエア駅の近くの「ローズ・アンド・クラウン」というパブの横を通る。「うあ、開いている!」僕は引き寄せられて行った。外に立っている人が七、八人いる。
「これ、列ですか?」
と尋ねると、一人の親爺が答える。
「俺たちは煙草を吸ってるだけさ。列なんてないよ。」
中に入ると、列もなく、あっさりとビールが買えた。二つの出入り口が「入り口専用」、出口専用」になっており、店内が一方通行になっているのが唯一の変更点。
天気の良い、暖かい日だったので、外で飲もうと思って、グラスを持って外に出る。アイルランド人の男性と、タイ人の女性のカップルが、ピクニックテーブルの反対側に座っていいよと言ってくれた。僕は二人と話しながら、久々にパブのビールを味わった。
日曜日、トレッキングの後で飲むビールは最高。この楽しみが戻ってきた。