久々のトレッキング
毎晩、コロナウィルスに関する政府の記者会見が行われた。ジョンソン首相はもちろん数週間いなかった。
五月も半ばになり、ロックダウンも二カ月を超えた。その間、スーパーと食料品店、薬局以外の小売店は営業できなかった。これ以上長引くと、コロナで死ぬ人より、金が入らなくて餓死する人、自殺する人が多くなりそうな気配になってきた。建前はサラリーマンと同じように、自営業の人にも、政府が申告所得の八割の休業補償をすることになっていた。でも、自営業の収入を把握するのは不可能に近いよね。誰も正直に申告してないもん。
「早く店を開けないと倒産する。」
「一人の患者を救うために、百人の失業者が出る。」
「このままでは、経済が破綻する。」
圧力が政府に掛かっていた。
五月十三日、ジョンソン首相は、ロックダウン緩和の「指針」が示す。イングランドでは、六月一日より学校の一部再開、十三日より別家族間の訪問規制の緩和、十五日より食料品以外の小売店の営業再開、七月四日よりパブ、カフェ、レストランの再開、というものだった。この指針が示された時点で、感染者や死者は減少に転じてはいたが、まだ一日数百人の死者が出ていた。幸い、感染者、死者とも、減少方向が続き、ほぼ予定通りに、学校や小売店、レストランなどが再開されて行った。「イングランドでは」と書いたが、英国は「連合王国」で、それぞれの「国」が自治を敷いており、裁判制度、学校制度なども違うのでややこしい。ロックダウン緩和に関しても、スコットランドやウェールズは、イングランドよりも慎重な姿勢を貫き。再開は遅かった。
六月十三日、別家族間の往来が許可された週の日曜日、僕と妻は、二人の娘と、友人のVさんと一緒にトレッキングに出かけた。娘とは言え、別々に住んでいるので、原則的に互いには訪問したり、一緒に行動したりしてはいけなかったのだ。車で、近くの村まで行って、そこから三時間半くらい歩いた。ちょうど良い天気。久々のトレッキングは気持ちよかった。ロックダウン中も歩いてはいたが、家から歩いて行ける範囲しか行っていなかった。僕は馬の世話で毎日結構歩いていたが。野原に馬がいた。
「あっ、馬さんだ、すご〜い、見て見て!」
と僕が言う。皆、一瞬僕を見るが、すぐに冗談だと気付く。
小売店が再開されて数日後、僕は興味があったので、近くのショッピングモールへ行ってみた。三か月間も食料品以外の買い物が出来なかったんだもの、大勢の人が詰めかけているのではないかと思った。衣料品の店に入ってみる。入り口で、女性従業員が、入った人と出た人の数を数えている。店内にいる客の数を制限するためらしい。手を消毒して店内に入ると、
「カーカー」
という鳥の鳴き声が。「閑古鳥」の声だった。はっきり言って、ガラガラ。入場制限なんて、全山必要ない。「外へ出るとまだまだ感染が怖い」、「経済的な先行きが不透明すぎて、買い物なんかしてられない」そんなところだろうか。経済回復までの道のりは長そう。
久々のトレッキング。気合を入れて、皆が豪華なピクニック弁当を持ち寄った。