オープンデイ
馬の世話五ポンド、一緒に散歩五ポンド、両方で八ポンドというのがお値段。
学校が復活祭で二週間休みになるとき、キャンペーンと資金稼ぎのために週三回のオープンデイが企画された。新しい試みは「予約制」である。子供たちは三十分間、一頭のシェットランドポニーの「担当」になれる。その馬に、餌をあげて、水をあげて、ブラッシングをして、一緒に散歩して・・・馬の持ち主の気分を味わえるのである。オープンデイに子供たちが一斉に詰めかけると、待ち時間が長くなるし、馬に触れられない子供も出てくる。だから、フェースブックを通じて、事前の予約を受け付けることにした。オープンデイは計六回行われたが、最初の週に全部「フルブッキング」になった。先ずは幸先のよいスタートである。
復活祭の最後の日、僕はそのオープンデイにボランティアとして参加した。やって来た子供たちに、馬の名前や経歴を説明し、ブラシの仕方を説明し、散歩にお付き合いする係である。
「この馬はレミーと言う名前で、ミニチュア・シェットランドポニー、今年十一歳なの。処分される直前にここで引き取ったの。大人しいいい子だよ。」
五分前に、トレーシーの作った「Who’s who」で覚えたことを、いかにもずっと前から知っていたように説明する。
「馬の反対側に行きたいときは、必ず前から回ってね。」
この辺は、新入りの頃ジュリーに口を酸っぱくして言われた。実際、蹴られて痛い目をしたこともあるし。
「僕は、毎日五十頭の馬のウンコを拾っているんだけど、それに一時間くらいかかるの。あそこに見えるのが、それを集めた『ウンコ山』なの。」
と自分の経験も織り交ぜる。
僕は二時間で四人の子供たちのお相手をしたが、何故か全員が女の子だった。子供だから馬が怖くないのか、動物好きの子供だから「オープンデイ」に参加するのか。どの子も、最初から馬を全然怖れないのに驚いてしまう。僕は、最初、もっと馬が怖かった。
「ポニーをカドルして(抱きしめて)いい?」
と四歳くらいのサーシャという名の少女が聞いてくる。いいよと言うと、抱きしめるどころか、シェットランドポニーの首にぶら下がっている。
馬を散歩コースに沿って、所々にバスケットが置いてある、その中の藁の下にプラスチックの卵が隠してあって、それを見つけた子供は、帰りに卵型のチョコレートと交換してもらえる。こちらでいう「イースターエッグ・ハンティング」も兼ねていた。
三十分間「お馬さん」のお相手をして、費用は十ポンド(千四百円)。結構いい値段である。しかし、こちらも商売をしている訳でないし、訪問者も寄付のつもりで、快く払ってくれる。
「今日は百七十ポンドになったわ。」
セーラの報告でジュリーは嬉しそうだった。彼女は常に、お金の心配をしているから。
子供たちが馬を散歩させる。暴走しないようにスタッフが付き添っている。一緒にいるのはジュリー。