馬さんWho's Who
トレーシーが作った馬さん紹介の掲示板。原稿を書いたのはジュリーとセーラとのことだが。
復活祭の二週間ほど前のこと。いつものように朝馬牧場へ行くと、入り口に一メートルX八十センチほどの掲示板が四枚置かれていた。誰かの手作りのよう。働いていると、トレーシーがやってきて、その掲示板を牧場内に運び込んでいる。
「何に使うの?」
「もうすぐ復活祭で、特別な『オープンデイ』があるでしょ。そのとき、お客さんに馬の名前と特徴を知ってもらおうと思って。」
とトレーシー。彼女の自分の手作の掲示板を、「オープンデイ」で、「シェットランド・ポニーと過ごそう」が行われる一角に立てている。
通常、日曜日の午後二時から四時までが「オープンデイ」ということになっており、その間は一般見学者を受け付けている。特に子供たちには、「シェットランド・ポニーと過ごそう」という企画があり、子供たちは、ポニーをブラッシングしたり、一緒に散歩したりできる。特に入場料はいただいていないが、ブラッシングと散歩にはそれぞれ五ポンドを「お心付け」としていただくことになっている。これが、組織の一番の収入源だと思う。冬の間は参加者も少ない。また、ウマインフルエンザによって、牧場が三週間閉鎖された。気候が暖かくなり、復活祭で学校が休みになる二週間に、いつもより多めに「オープンデイ」を開催し、少しでも稼ごうということになっていた。
その時の観客サービスの一環が、「馬さんWho's Who」の設置である。それぞれの馬の写真、名前、プロファイルを掲示板に載せて、個々の馬について詳しく知ってもらおうというもの。僕は、翌日牧場へ行って、その出来栄えに唸ってしまった。
「素晴らしい!」
A4一枚の紙に、一頭の馬の写真二枚と、名前、血統、簡単な紹介が印刷されていて、それがラミネート加工されて、掲示板に貼られている。
実際、それは僕にもすごく役に立つものだった。馬牧場で働いて半年が経つが、僕はまだ全ての馬の名前を憶えていない。特徴のある馬は覚えやすい。全盲の馬は「ヌードル」と「スウェーズ」とか。しかし、黒と白のブチの馬だけでも「ポロ」、「カルロス」、「マルコ」など何頭もいる。誰が誰であるのか、それまで分からなかった。トレーシーの作った「馬さんWho's Who」を見て、僕は初めて馬の「名前と顔が一致」した。
「学校の先生は偉いな。」
と中学校や高校の同窓会に出て思う。何十年も会っていないのに、先生方が、かつての生徒の名前を、結構憶えておられるからである。名前を覚えるコツというのがあるのかも。
次にトレーシーに出会ったとき、
「あれは、素晴らしい。僕自身にも、すごく役に立った。」
と褒めてあげた。彼女は、笑いながら言った。
「わたしにも勉強になったわ。あのプロファイルを作っていて、初めて顔と名前が一致したの。」
ポニーにブラッシングをする子供たち。一通りの世話をすると、子供たちには「認定書」が渡される。