お薬の時間ですよ

 

ポロとバンブル、二頭とも消化器系の病気があり、薬が与えられている。ちょっと元気がないと心配になる。

 

京都の母の家にいるとき、夕食が済んだ後、ふたりが薬を飲み始める。母も僕も、循環器系の病気があるので、三種類くらいの薬を飲んでいる。飲む薬をテーブルの上に並べる。

「沢山あるね。」

「ホンマ、馬に喰わせるほどあるね。」

さて、実際の馬は、薬を飲むのだろうか。飲むとしたらどれくらいの量なのか。本当に「馬に喰わせるほど」なのだろうか。

 「サンクチュアリ」にいる馬は、高齢者、障碍者が多い。当然病気の馬もいる。その馬には薬を与えなくてはならない。薬は晩御飯の際、ふすま(小麦の外皮)に混ぜる。胃が悪い馬には胃の薬、ガンの馬にはその薬、血糖値が高い、つまり糖尿の気のある馬には血糖値を下げる薬を入れる。感心するのは、馬が健康診断を受け、「血糖値が高い」等の障害が把握されていることである。ガンが見つかったなんて、どうやってレントゲンとかCTスキャンをしたのかと考えてしまう。馬の症状を良く知っているジュリーはテキパキと、ボウルの中に薬入りのふすまを作っていく。

「この薬、高いのよね。これだけで百ポンド(一万四千円)以上するのよ。」

とジュリーが白い粉のはいった小袋を指して言った。馬には「NHS」(ナショナル・ヘルス・サービス、英国の国民健康保険)がもちろん効かない。おまけに、図体がでかいので、与える薬の量も半端じゃない。薬代は馬牧場にとって、結構な負担になっているのだ。

 数種類の薬入りのボウルが用意されると、ジュリーがそれにリンゴジュースを入れて練っている。

「こうすると、馬たちが喜んで食べるの。」

なるほど、「良薬は口に苦し」というが、薬入りの餌は、馬にとってもあまり美味しいものではないようだ。僕は胃の悪いバンブル用のボウルを持って、彼のところに向かった。

 さて、薬代のところで、費用に触れたので、ここで、馬牧場がどのように運営されているかを簡単に紹介したい。六ヘクタールの土地は町から、格安で月に五百ポンド(七万円)くらいで借りているの。(ということは、町が他に使いたいと言い出したら、立ち退かねばならない。)水も町営住宅のものを、許可を得て使わせてもらっている。協力農家からの干草や藁の費用は月々二千ポンド(二十八万円)くらい。パンやニンジンは前にも述べたが、近郷のスーパーの寄付。指定チャリティーなので、地方自治体から、補助金がもらえるが、これは年間十万円にも満たない「雀の涙」。労働力は全て僕のようなボランティアで賄われている。

 それに加え、薬代や、建物や柵の修繕費、馬の健康管理費、それらにも結構な金額が必要になってくる。金を集めるため、主にふたつの活動が行われている。「サンクチュアリ」ではスポンサーを募集している。ウェッブサイトで簡単に手続きができ、小学生でもお小遣いでスポンサーになれる。次は、「オープンデイ」などの事業収入である。それでは、次に「オープンデイ」に話を進めたい。

 

見学者に、説明をするジュリー。毎週日曜日の午後、見学者を受け入れている。PRも大切な仕事。

 

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