最初の失敗

 

 

「ズブの初心者」である僕は、早速第一週から失敗をしてしまった。火曜日から仕事を始めて二日後の木曜日。昼過ぎに馬牧場に行く。車を停めて、フェンス越しに中を見ると、フィールドの真ん中に黒い馬が横たわっている。周囲に数頭の馬が集まっている。

「馬は立って眠る。」

「馬は横になったら死んでしまう。」

そんなことを聞いたような気が。僕は半分パニックになって、恐る恐る近づく。

「死んでへんかな〜。生きてるかな〜。」

一頭が、完全にベタっと地面に横たわっている、首も頭も地面に付いている。しかし、目は開いているし、尻尾も動いている。

「生きている!でも、病気なんや。」

僕は、ジュリーの電話をした。

「黒くて、顔に白い筋のある牡馬が倒れているの。どうしたらいい?」

彼女は、その馬の名前を「バンバー」と言った。仕事を置いて、直ぐに来ると言う。彼女はルートンという町から来るので、三十分くらいかかる。

二十五分くらい経ったとき、倒れていた馬がムックリ起き上がった。そして、トコトコと歩き出した。僕はまたジュリーに電話をする。

「起きて歩き出した!」

ジュリーはもうすぐ近くまで来ているという。

「ごめん、病気かと思った。寝ていただけだったんだ。」

駆け付けたジュリーに謝る。

「本当に病気かもしれなかったから、モトの判断は間違いじゃないわ。でも、馬って、本当に疲れていると、横になって休むのよ。」

彼女は慰めてくれた。また、バンバーは胃に病気があり、健康状態が気遣われる馬だったそうだ。確かに、その後、僕は藁の上にベタっと横たわって、気持ち良さそうに眠っている馬を何度も見た。

「もうほんまに、馬は立ったまま眠るなんて、誰が言うたんや!」

牧場で、まず教えてもらったのは、「水遣り」だった。牧場のそこここには、馬が水を飲むための、直径七十センチくらいの、プラスチックのバケツがそこここに置いてある。それを補給していくわけだ。驚いたことに、牧場に、電気も水道も来ていない。水道は傍にある集合住宅の駐車場にある水道を、町役場の許可を得て使わせてもらっている。そこから、何十メートルものホースをつないで、五十個近いバケツに、順に水を補給していくわけ。最低でも四十五分、水が減っているときには一時間半かかる、結構「時間食い」の作業なのである。その日から、月曜日から金曜日までの水遣りが、僕の仕事になった。馬は大量の水を飲む。おそらく、六十頭の馬は毎日約一立米、つまり約一トンの水を飲む。

 

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