ベジタリアンのウンコは臭くない
「馬って水をたくさん飲むよね。」
と僕が言うと、
「干草を食べると、喉が渇くのよ。青草を食べる馬は、それほど水は飲まないわ。」
とトレーシーが教えてくれた。
犬や猫は、口を開けて、舌を出して、「ペチョペチョ」と舐めるように水を飲む。しかし、馬は口を殆ど閉じたまま水面に近づけ、「ウグウグ」という感じで水を飲む。吸い込む力は大きく、バケツの水位が見る間に下がっていく。今満タンにしたはずのバケツが、すぐに半分くらいに減っていることもある。
バケツが十個ほど並んでいる場所でも、バケツによって減り方が全然違う。皆、自分の好みのバケツがあるよう。色々な色のあるバケツだが、黄色や紫色のバケツの水の減り方が、黒いバケツより激しい。馬にも好みの色があるよう。
次に教わった仕事は「ウンコ拾い」であった。牧場の馬の居住エリアや厩舎の中には藁が敷いてあるので、馬のウンコは大部分その藁の上に落ちている。それを、長い「フォーク」で掬い取って、一輪車に乗せて、牧場の片隅の「ウンコ捨て場」へ運ぶ。先ほども言ったが、牧場には電灯がない。日が沈んだ後の作業は不可能。冬至の頃は三時半には暗くなるので、午後の作業は、迫りくる夜との戦いになる。特に、この「ウンコ拾い」作業は、暗くなってくると不可能になってしまう。
「ウンコは臭くて大変でしょう。」
と皆に言われる。ところが馬のウンコはほとんど臭わない。何故かというと、まだほとんど草なのである。馬は牛や羊のようは反芻動物ではないので、栄養吸収の効率がそれほど良くない。ほとんど草の形で排泄されてしまうのだ。インターネット百科、ウィキペディアによると、
「ウマは後腸発酵動物であり、反芻動物とは異なり胃は一つしかもたない。しかし大腸のうち盲腸がきわめて長く(約1.2m)、結腸も発達している。これらの消化管において、微生物が繊維質を発酵分解する。」
つまり、腸の中で草の栄養で微生物を育て、微生物のタンパク質を吸収し、大きな身体を造っているのだ。牛のウンコがネットリとして臭いのは、とことんまで栄養を吸収した後だから。友人で生物学者のTさんによると、ウンコの臭いはタンパク質によるものとのこと。
「と言うことは、ベジタリアンの人のウンコは、それほど臭くないんだ!」
嗅いだことがないので、あくまで、推測に過ぎないが。
牧場の一画に積み上げられたウンコは、おそらく、後で、近所の農家の方が、肥料として取っていくのだと思う。ほとんど草なので、乾かすと燃料として使えるそうである。モンゴル遊牧民などは、実際そうしているとのことだ。つまり、それだけのカロリーがまだ残っているということ。