僕が馬牧場で働き始めた理由

 

 

僕が馬牧場でボランティアを始めたと誰かに言うと、いつも、次のような会話が続く。

「モトは馬が好きだったんだね。」

「いや、これまで触ったこともない。」

「でも、きっと動物が好きなんだ。」

「犬を一度飼っただけ。」

本当に、僕はこれまで、動物に縁のない人だった。生涯で一度だけ犬を飼った。コーディというやんちゃなチビ犬。しかし、四年前、彼が死んでから犬はもう飼っていない。ニュージーランドのオーガニック農場に居たとき、羊の水遣りを何度かした。しかし、それとて、羊の水飲み場にトラクターで水を持っていくだけ。直接、羊に接したわけではない。

 何故、僕が定年退職後のボランティアに馬牧場、正式に言うと「セシル・ホース・サンクチュアリ」つまり、「セシル捨馬保護センター」を選んだのか。理由を尋ねられると自分でも困ってしまう。ここ五年間、会社に通うとき、朝夕、「サンクチュアリ」の横を車で通っていた。馬さん達を横目で眺めながら。そして、そこのゲートに「ボランティア募集」と書かれた横断幕があるのも見ていた。その「馴染み度」の高さからだろうか。会社を辞めたら、そこでボランティアをしようという気に、何となくなったのだ。

会社を辞める数週間前に、「サンクチュアリ」のホームページを見て、メールでボランティア希望であることを告げた。主宰者から「ボランティア登録用紙」なるものが送られてきて、そのフォームに記入して持ってくるようにと言われた。「セシル・ホース・サンクチュアリ」というからには、その主宰者はセシルという名前だと信じ込んでいた。

十月末、日本での一カ月の休暇を過ごした後、指定された番号に電話で連絡すると、面接をするとのこと。僕は、どこかに、事務所があってそこへ行くものだと思っていた。

「日曜日の二時から、オープンデイがあるので、そのとき来てね。」

とのこと。僕は十一月の最初に日曜日、妻と二人で二時過ぎに牧場へ行った。そこで、そこは単に牧場だけで事務所などないこと、主宰者の女性は、ジュリーという名前であることを知った。ジュリーが、創設者であり主宰者であるという。

「それなのになぜ『セシル』という名前なの。」

と謎は深まるばかりである。

 オープンデイということで、その日は、母親に連れられた子供たちが多かった。子供たちが、ポニーを引いて五十メートルほどの距離を歩くという催しが行われている。ポニーは背の高さが一メートルくらい、足の長さは三十センチくらい。

「可愛い〜。」

僕は、一目見て、ポニーたちを気に入った。彼らと一緒にいてみたいと思った。

一緒に来た妻は、あちこちに落ちている馬のウンコを踏まないように、注意して歩いている。

 

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