サンクチュアリのモットー
「これから牧場内を案内しますのでお集まりください。」
ジュリーがそう言いながらやって来た。
「あなたたちも、一緒にどうぞ。」
彼女は、妻と僕に言う。僕らは、一般見学者と一緒に、牧場内の説明を受けた。ジュリーが、厩舎を順に巡りながら説明をする。
「英国で一年間に六万頭の馬が捨てられています。このエルストリーの牧場では六十頭が暮らしています。主に小型馬です。ルートンにもうひとつ牧場があり、そこには大型馬がいます。」
ジュリーは、数頭の馬について、どのような経緯でここへ来たかを紹介した。窓もない部屋に数週間閉じ込められていて、それがトラウマになっている馬もいるという。
「一年間に六万頭が捨てられる」、僕はそれを聞いて驚くと同時に、ふたつの疑問を持った。
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馬を飼えるほど、広い土地とそれなりの金を持った人が、何故簡単に馬を捨ててしまうのかとういう点。
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仮に一パーセントの馬が捨てられると仮定すると、全体では六百万頭ということになる。一体、この日本より狭い英国に、何百万頭の馬がいるんだろうかという点。
このふたつの疑問には、今もって答えを見つけていない。
牧場内のツアーが終わり、ボランティア希望者が残った。僕を入れて二人。もうひとりは中学生の少女だった。お母さんがついてきていたが、メチャ化粧の濃い女性で、牧場に何だか不釣り合いな感じ。ポニーが可愛かったので、相手をするのが楽しみになってきた。
「週日はダメですが、週末は働けます。」
と少女が言った。
「週日は働けますが、週末はダメです。」
と、考えるのが面倒だった僕は、全く同じ文型を使わせてもらって言った。
「じゃ、来週の火曜日の午後一時に来てね。トレーシーが仕事の説明をするから。」
とジュリーが僕に言った。
さて、ここでジュリーが主催するのに、どうして「セシル・ホース・サンクチュアリ」というのか、それも含めて、この組織の概要、歴史を説明しておこう。オープンデイでの、ジュリーの説明にもあったが、以下が、ホームページに記載されている内容である。
まずは、サンクチュアリの活動方針について・・・
「『セシル・ホース・サンクチュアリ』は、歳を取ったり、捨てられていたり、怪我や病気だったりして、世話が必要な馬やポニーの苦痛を少しでも軽減することを目的として、活動しています。そのような馬の世話と治療のために、救助住宅やその他の施設を提供し、その施設を維持することを目指していています。『生きている馬を決して殺さない』というのが、私たちのモットーです。」