オリーブ

見渡す限りオリーブの木が広がる。

 

三本指の一本、カサンドラ半島から、掌の部分に当たるハルキディキ半島に分け入る。丘陵地帯にオリーブの木が植わっている。オリーブの収穫は秋。木にはまだ実がなっているものもあれば、もう収穫の終ったものもある。三十分くらい、延々とオリーブの木の間を走る。

「またまた、デ・ジャ・ブや。」

僕はつぶやく。僕は、今年の初め、ニュージーランドで、マールボロ地方のブドウ畑の間を車で走ったことを思い出していた。谷に沿って二時間車を走らせたが、その二時間の間、ずっとブドウ畑の間を走っていたのだ。何十万本、何百万本のブドウの木が植わっていたのだろう。このハルキディキ半島も同じ。一体何十万本、何百万本のオリーブの木があるのかと思ってしまう。車を停めて、オリーブの実を取り、噛んで見るが、苦い味が口の中に広がる。オリーブは生では食べられないのである。

オリーブ畑を抜けて、山道に入る。山の上から眺めると、そのオリーブ畑の規模の大きさ、広さが一層よく分かる。その山の中に「忽然」という感じで、ポリギュロスの街が現れた。なかなか良い感じの街。しかし、街に入ってみると、そこには、またまた死に絶えたような静寂が支配しており、店は全て閉まり、人通りも全くない。

「別に観光地でもないのに、どうして店が皆閉まってるんやろ。まだシエスタの時間なのかな。」

妻と僕は首を傾げる。犬を散歩させている若い女性がいた。妻が彼女に、店は何時に開くのか尋ねている。妻が戻ってきた。

「今日は、国民の休日で、店は全部お休みなんだって。明日は開くと言っていた。」

と妻は言った。夕闇が迫り、気温が下がってきた。僕たちはリゾートに戻り、その日も「スパ」へサウナと蒸し風呂に入りに行った。

 翌日、昨日途中まで行ったトレッキングコースの残りを歩いてみることにする。トレッキングコースの終点のシヴィリという村まで車で行き、そこからリゾートに向かって歩き始め、昨日辿り着いた場所まで来たら引き返すことにより、全線を走破しようという計画である。朝食を済ませ、その間に昼食の準備もした僕たちは、九時半にリゾートを出て、山道をシヴィリの村へ向かって走り出す。またまたオリーブのプランテーションの間を三十分くらい走る。

 砂浜が広がるシヴィリの村、夏の間はにぎわうのだろうが、ここもゴーストタウン化していた。車を停め、まず砂浜を歩き、砂浜が終ったところで小さな半島を登り始める。海に面して、白い瀟洒なアパートメントが建っている。こんな所に住んで、毎日海を眺めて暮らすのも悪くない。しかし、全てのアパートメントは閉まっている。しかし、その前には、紅色やオレンジ色の花がきれいに咲いている。山道にはピンク色の野生のシクラメンの花。これも可愛らしい。

「花は愛でる人がいなくても、咲くものなのだ。」

僕はちょっと「クールに」そうつぶやいてみる。

今日も、海を松林越しに見ながら歩く。アップダウンの激しい道なので、結構足が疲れる。最初の半島に、ケーブルカーの跡があった。海岸に下りるためにケーブルカーが作られたのだろう。しかし、今はその跡だけ。線路の横の金属の急な階段を使って上り下りするしかない。下りるのはよかったが、上りが大変。階段を上り切ったとき、膝がケタケタ笑っていた。

 

見る人は去ってしまったが、花だけはまだ咲いている。

 

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