何てったってお風呂

 

きれいなプールがあるが、もちろん誰も泳いではいない。

 

ゴーストタウンから戻って、リゾート内の「スパ」へ行く。気温は相変わらず低い。十二、三度だと思われる。

「寒いときには何てったってお風呂!」

スパでは、マッサージやフェーストリートメントなんかは有料だが、サウナとトルコ風呂(蒸し風呂)には只なのだ。サウナの中では、お互い暇なので、宿泊客同士で話をする。

「こんなサービスの良いリゾートホテルに泊まったのは初めてだ。」

とドイツ人の男性が言った。同感。

「本当に、ここはサービス、環境ともに最高ですよね。」

ということで誰の意見も一致する。しかし、今回は、必ずその後に同じ文句が来た。

「これで暖かければねえ。」

スパで温まって外に出ると、辺りは暗くなっている。今度は、冷たい空気が肌に気持ちよい。

「日本で、冬に温泉に入りに来ていると思えばいいんだよな。」

と僕は妻に言った。ラウンジでビールを飲む。風呂上りのビールは最高!

翌朝、八時半頃に朝食のためにレストランに行く。背の高い、愛想の良いウェーターのお兄さんに、どこから来たのかと聞かれたので、日本からだと言う。

「日本人のお客さんの相手をするのは初めて。」

と彼は言った。初日のレンタカー屋のお兄ちゃんにも同じことを言われた。ここは日本人の決して来ない場所なのだ。

「『サンキュー』は日本語で何と言うのですか。」

とウェーターのお兄さんに聞かれたので、

「『ありがとう』と言うのです。」

と教えてあげる。翌日からそのお兄ちゃんは「ありがとう」と言ってくれるようになった。ちなみにギリシア語で「ありがとう」は「エフカリストー」と言う。「どういたしまして」は「パラカロー」。「馬鹿野郎」と怒鳴られているみたいな気分になる。ギリシアは物価が安いが、

「安かろう、パラカロー。」

ということになるのだろうか。(これはかなり苦しい。)「こんにちは」は「カリメラ」、「こんばんは」は「カリスペーラ」。昔はもっと沢山覚えていたのだが、すっかり忘れて、今はこれだけしか覚えていない。

 今日は、昨日とは反対側、カサンドラ半島の先に向かって、海岸沿いを歩くことにする。地図をくれたフロントのお姉さんは、

「ちゃんと標識が出ていますから。」

と言ったのだが、嘘ばっかり。どこに標識があるの。「正しいトレッキングルート」を見つけるのにかなり苦労をした。まあ、海を右手に見ながら歩けばよいのだから、そんなに大きくコースを外れることはないのだが。大雨の後なので、粘土質の道はニチャニチャと靴にまとわりつくし、崖崩れの跡もある。ギリシアも北の方は雨が多いので、緑が多い。海岸に沿って松林が続いている。小さな半島と、砂浜のある小さな湾が交互にやって来る。

 

南の島では見られない密度の濃い松林の緑と、海の緑が美しい。

 

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