グリューヴァインとクリーヴルスト

 

城と共にマーブルクのシンボルであるエリザベート教会。この境内でマーケットが開かれている。

 

十時前にCT(クリステントレッフ)の礼拝会場である旧クアハウスに、ハリーが現れる。

「久しぶり〜。」

と抱き合う。(今回、これまで、何人とハグをやったかな。)相手が女性だと、これに左右の頬をくっつける儀式がある。

先にも述べたが、僕はマーブルクに住んでいるとき、日曜日の午前中、礼拝に行っていた。今では信じられないけれど。子供たちが行っていた幼稚園が、教会の経営する施設だったので、園児は自動的に日曜日の礼拝にも来る、そんな雰囲気だったのだ。小さい子供だけをやって、親が行かないわけにいかない。ハリー、弟のアレックス、あるいは妹のミリアムなどが日曜日の朝誘いにきてくれたのを思い出す。

「ワタル、ミドリ、一緒に『ゴッテスディーンスト』に行こう〜。」

しかし、日曜日の朝、礼拝に出て、歌を唄い、「それなり」にためになる説教を聴き、近所の人たちと交友を深めると言うのは、正直、楽しい習慣であった。

CTの礼拝は「新しい」。英国で教会の礼拝に行くと、半数以上の参加者は老人であるが、ここの礼拝は半数以上が若者。唄う歌もポップス調、伴奏も、オルガンではなく、ギター、ベース、それにドラム。歌詞はスクリーンに描き出されるし、クリスマスのミサへの招待には、映画のように「トレーラー(予告編)」も放映される。かなりハイテクな礼拝なのだ。

しかし、新しいと言っても、所詮キリスト教の礼拝であるので、ジーンズを履いたお兄さんが、

「エレミアはイエスの生まれる七百年前に、救世主の登場を預言しました。」

なんて内容を語るのであるが。

 礼拝が終わって、ハリーのアパートでお茶を飲んだ後、彼と別れ、レンタカーを返す。その日は、午後二時のインターシティで、フランクフルトへ向かうことになっていた。列車の時刻まで、まだ時間があるので、昨夜見られなかった、マーブルクのクリスマスマーケットを見ていくことにする。

 クリスマスマーケットは、エリザベート教会の中庭で行われている。駅からそこまでは歩いて十分もかからない。でも、やはり、クリスマスマーケットを訪れるのは、イルミネーションが映える、夕方から夜の方が良い。昼間のクリスマスマーケットというのは、何となく、「気の抜けたコーラ」という感じがする。

 教会の建物の周囲には、三十軒ほどの屋台が立っていた。半分くらいがキャンドル、アクセサリー等のクリスマスプレゼントを売る店。残りの半分がソーセージ、ピザなどを売る食べ物屋である。家族へのクリスマスプレゼントを買った後、「グリューヴァイン」と「クリーヴルスト」を買う。グリューヴァインと言うのは、香辛料の効いた、温かいワイン、ドイツのクリスマスの定番である。クリーヴルストはカレーケチャップのかかったソーセージ。ウーヴェ・ティムという作家が「カレーソーセージの発明」という面白い本を書いていた。(「カレーソーセージをめぐるレーナの物語」というタイトルで邦訳が出ている。)

 

マーケットの中の蝋燭の店、ドイツ人は本当に蝋燭が好き。

 

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