村の超有名レストラン
ヴァイデンハウゼンの「ダ・ジョルジョ」で、子牛のレバーをつつくジギ。手前がムール貝のワイン蒸し。
その日の夜は、ジギとマーゴットと、マーブルクのクリスマスマーケットを見に出かけ、その後、旧市街のイタリア料理店で夕食を取ることになっていた。ドライハウゼンから帰り道、雨が激しくなる。牧草地や畑の間を走っていると、雪が完全に消えたのが分かる。午後六時を過ぎても雨へ降りやまない。
「雨の中でクリスマスマーケットを見てもつまんないし、晩御飯は近場で食べるか。」
とジギが言う。こんな村に、レストランなどあるのかと思ったが、六時半過ぎ、坂を下りていくと、「忽然と」と言った感じで、一軒のイタリアレストラン「ダ・ジョルジョ」が現れた。村のレストランと言えども、中は結構広く、驚くべきことに、席はほぼ満席。レストランの前に停まっている車を見ても、「マーブルク・ナンバー」だけではなく、お客が結構遠くの土地から来ているのが分かる。
「このレストラン、結構有名なんやね。」
と僕が言うと、
「そうそう、よく雑誌なんかにも紹介されているらしいよ。」
とジギが答えた。
ジギは、子牛のレバーを、マーゴットと僕はムール貝のワイン蒸しを注文。ムール貝は、火の通りが絶妙で、まだ本来の柔らかさを保った状態でサーブされ、なかなか美味しかった。最後に、下に溜まったスープも、持ち帰って、ご飯を入れて、「おじや」にしたいくらいの味だった。
家に戻って、また暖炉の火を見ながら三人で話す。僕は明朝、発つことになっている。マーゴットもジギも、一時マーブルクに住んでいたが、元々ふたりともこの村の出身で、小さな子供の頃からお互いに知っていたという。驚くべきことに、この辺りの村々には、一つずつ、固有の方言があるという。試しに、その方言で喋ってもらったけれど、全然理解できなかった。そして、隣の村の人はまたちょっと別の方言を話している。ドイツはもともと、東京、パリ、ロンドンのような中心のない、「田舎」の寄り集まりだと聞いたことがあるが、なるほどと納得する。
翌朝九時過ぎ、僕はお礼を言って、ジギとマーゴットと別れた。
「また、いつでもおいで。」
と言ってくれる。実は、ロンドンに研修に来た彼らの娘を、僕は四週間ロンドンの家に泊めてあげたことがあるのだ。今回三晩泊めてもらったが、まだまだ帳簿上は、うちに「貸し」のある状態。しかし、こうして快く泊めてもらえる場所があるのは有難い。
すっかり雪の消えた野原の間を走る。十時少し前に、マーブルクに到着、礼拝のある場所に到着、車を停める。今日はこれから、クラーク家の長男ハリーと一緒に礼拝に出ることになっていた。今から考えると信じ難いことだが、「無神論者」の僕なのに、マーブルクに住んでいるときは、日曜日の午前中、いつも教会の礼拝に行っていたのだった。
礼拝のあった旧クアハウスの前からマーブルク城を望む。