雪の中の散歩
窓から雪を見ながらの朝食も良いものだ。
目を覚ました僕は、辺りが明るいのに驚いた。僕は、ドイツのジギとマーゴットの家の「コンザバトリー」(庭に面したガラス張りの部屋)に寝ていた。昨夜、眠りにつくときは、確か鼻をつままれても分からない漆黒の闇だった。しかし、今は不思議な明るさに包まれている。時計を見ると午前六時、まだ日が昇るまでには三時間近くある。
「雪が降ったんだ。」
「雪灯り」、雪の降る夜、辺りが不思議な明るさに包まれることを、僕は知っていた。
午前七時過ぎに、ジギが仕事に出て行った。彼は、マーブルクでギムナジウムの先生をやっている。少し明るくなってきたので、外を覗くと、一面の銀世界。少し吹雪いている。ちょっと外に出てみたい。しかし、まさか雪に降り込められるとは思っていなかったので、僕はメッシュのジョギングシューズを履いてきていた。いくら何でも、そんな靴で雪の上に出たら、十秒後には足が濡れて、霜焼けになるだろう。
携帯でインターネットのニュースを見ると、どの新聞、どのテレビ局も、ネルソン・マンデラの死を伝えている。あの方も、遂にお亡くなりになったようだ。
八時過ぎに、マーゴットが起きて来る。彼女と一緒に朝食を取る。僕は、前日の夜、彼女が作った野菜スープを温めた。
「温かいスープって美味しいよね。」
と僕。
「でも、朝食にスープって変じゃないの。」
とマーゴット。
「全然、だって、僕は毎朝味噌汁を飲んでるもん。」
そう言う彼女だって、九月にロンドンの僕の家に滞在しているとき、朝御飯に、僕の作った「ミゾ・ズッペ」を、美味しい美味しいと言って飲んでたじゃん。
朝食を終え、九時過ぎから、マーゴットと雪の中を散歩することにした。ジギの編み上げブーツを借りる。
「パスツ・ディア?(足に合う?)」
「ヴィー・ベシュテルト。(あつらえたようだ。)」
雪の中の散歩はなかなか楽しかった。積雪は十センチ足らず。雪は小降りになり、風も治まっていた。昨夜、台風のような低気圧が北ドイツとスコットランドを襲い、被害をもたらしたとのこと。しかし、ドイツ中部の、ここヘッセン州では雪が降っただけである。
彼らの家の前の道は、既に除雪車が入り、車が通れるようになっていた。しかし、脇道はヴァージンスノー、ふたりでその上に足跡をつけていく。これが、結構子供の頃に戻ったようで、面白かった。マーゴットの家の後ろの、広大な牧草地を一周した後、僕たちは墓地を通った。ジギのお父さんは昨年亡くなり、この墓地に眠っている。マーゴットの両親と、ジギの母親も。その墓に案内してもらったが、墓標は雪に覆われて、名前は読めなかった。
雪で花の咲いたような木々の間を行く。