メッシの国から来た青年
今日も今日とて船岡温泉の暖簾を潜る。
京都に滞在中、ほぼ毎日、「船岡温泉」に行った。夕方銭湯に行き、サウナに入り、広い湯船に浸かると本当に癒される感じがする。ワタルによると、この銭湯が、英語のガイドブック「ロンリー・プラネット」の、「京都に行ったら必ず行きたい場所、ベストスリー」に入ったという。復活祭休みが始まったこともあって、今回は特に外国人の旅行者が多い。
その日も露天風呂に入っていると、ラテン系の顔立ちの青年が入ってきた。例によって
「あんた、何処から来たん?」
と尋ねる。
「アルゼンチンから。」
とのこと。彼と英語で話をする。一緒に浸かっている二人の小学生が、僕達の会話を不思議そうに聞いている。
「このお兄ちゃんアルゼンチンから来たんやて。」
と子供達に言うと、
「メッシと同じや。」
とふたりは同時に叫んだ。なるほど、今はメッシがアルゼンチンの顔なのね。
「マラドーナも知ってる?」
と聞くと、
「監督やろ。」
世代と、時代の差を感じた。
土曜日、ワタルが北京へ戻る。彼は朝五時に迎えに来たMKタクシーのマイクロバスで発って行った。ヨーロッパ生まれでヨーロッパ育ちの彼が、日本の葬式に参加することから学んだものは何だったろうか。正直、彼が自主的に父の葬儀に出ると言ってくれたときは嬉しかった。
「今回きみは、何を学んだの?」
と別れ際に聞いてみる。
「分かんない。多すぎて、消化するのに少し時間がかかる。」
ワタルは言った。
「来てくれて有難う。」
そう言って別れる。良く考えたら、その日は彼の司法試験の発表の日だった。
日曜日、福岡から日帰りで姉が出てくる。姉もここ一ヶ月で何度福岡と京都を往復しているんだろう。北大路駅で会ってFさんの家へお礼を言いに行く。その後継母の家で書類の交換。僕の必要な書類は全て整ったし、姉の必要な書類も揃ったようだ。その日の七時過ぎの博多行きの新幹線に乗るために姉は六時に出て行った。父の遺影のミニ版を姉は持って帰った。口には出さないが、姉も疲れているだろう。「ご苦労さんです」、と思いながら、角を曲がる姉の背を見送った。