石庭にて

観光客で賑わう、龍安寺の石庭。

 

告別式の数日後、その日は予定していたことが昼過ぎに終わった。天気も良い。僕は、少しサイクリングをしてみることにした。厳密に言うと、毎日自転車で走り回っているので、目的を持った「お遣い」、「用事」のための「サイクリング」はしているわけだ。その時は、「楽しみ」、「リクリエーション」のための「サイクリング」をしようと思ったわけだ。

ママチャリを駆って西に向かい、金閣寺と立命館大学の前を過ぎて更に西に向う。誰かに「京都半日の観光コース」を尋ねられたら、僕は「仁和寺>龍安寺>金閣寺>大徳寺」というコースを勧める。今日はその「お勧めコース」を自分で辿ってみようと思ったのだ。

落ち着いた雰囲気の仁和寺。五重塔が美しい。桜の名所でもある。桜はかなり蕾が膨らんでいるが、開花までにはまだ一週間以上あるだろう。外人の中年女性が、和服を着た日本人女性の写真を撮っている。オーストリアから来たというおばさん。ドイツ語で話す。

「あなた自身、『キモノ』を着て観光すれば、ぐっと雰囲気が出ると思いますけど。」

「えっ、借りられるんですか?」

西陣織物館の場所を教えてあげる。

龍安寺の石庭に入る。天気の良い観光シーズンの午後、石庭の前の縁側にはズラリと人が座っている。少し待って、空いた場所に座る。太陽にキラキラ光る白い砂を眺めていると心が落ち着く。

「かなり疲れてるなあ。」

と呟く。時間を無駄にしないで、常に全力で生きていくことに疲れてきているのが自分でも分かる。また、僕は他人が思うほど社交的な人間でない。小さいときから独りでいるのが好きだった。しかし、他人の前では「フレンドリー」に振舞い、そして、その後落ち込むタイプ。最近、人と会ったり、人前で挨拶する機会が多い。ずっと人前で取り繕っているので、その精神的な疲れがかなり溜まっているような気がする。石庭の傍で、しばし目を閉じて瞑想に耽る。

 隣に外国人の青年が座っている。ベルリンから来たドイツ人。またドイツ語が役に立つ。

「独りなの?」

と聞くと、

「ガールフレンドがきみの向こうに座ってる。」

と言う。僕はカップルの間に割り込む形で座っていたのだ。

「こりゃ失礼。場所、代わろうか?」

と聞くと、そのままで良いとのこと。彼が僕の宗教を聞いてくるので、「アテイスト、無神論者」だと答えておく。

「きみはさっき、瞑想に耽っていたけど、無神論者でも『瞑想』をするの?」

と彼が聞いてくる。

「それは宗教と関係ないんじゃない?」

 

<次へ> <戻る>