ヴェルサイユへ
ヴェルサイユ宮殿の正面。この朝日の当たる場所にルイ十四世の寝室がある。
日曜日、今日はヴェルサイユへ行く日。ヴェルサイユはパリの南西約二十キロの場所にあり、ロワシーからはパリを挟んでほぼ反対側に当たる。
「早く行かないと、混んでいて、長い列に並ばなければいけないよ。」
とアーロンから忠告されていたので、今日も暗いうち、七時過ぎにホテルを出る。昨日と同じ経路、シャトルバスとRERを乗り継いで、八時半ごろ、ノートルダム寺院のあるサン・ミッシェルへ着く。そこからRERの別の線に乗り換えて、ヴェルサイユに向かう。
夜が明ける。今日も雲ひとつない上天気。風は少し冷たいが。九時前に乗った電車は、日曜日の早朝にも関わらず、ヴェルサイユ宮殿を観光する人々で、七割くらい席が埋まっている。
九時半ごろ終点のヴェルサイユに着き、他の人々と一緒の方向に歩き出す。小さな町だが、王城があるだけに、道路はとても広い。角を曲がると、道路の向こうに、キンピカの門が朝日を反射している。そこが宮殿への入り口であった。
もう二百メートルくらいの列が出来ている。とりあえずその列の最後に付く。列が動き出し、さあ入るぞという直前になって、その列は「切符を買ってこれから入場する人」の列だと分かった。僕はまだ切符を買っていない。もう一度今度は切符の列に並び、券売機で切符を買った後、また入場の列に並び直す。列は一段と長くなっている。宮殿に着いてから、もうかれこれ三十分は経っている。とにかく、どこにも指示が書いてないのだ。
「もうちょっと親切に書いといてほしいわ。」
と心の中でブツクサ言う。
列で、日本人の小柄な女性と一緒になった。三十歳くらいのお姉さん。殆どジーンズの女性観光客の中で、グレーの短めのジャンパースカートと黒いタイツがなかなか新鮮。ひょっとして僕は「ジャンパースカート、フェチ」なんだろうか。
「ここへ着てから三十分以上経ちますけど、右往左往して、まだ列の最後尾なんですよね。」
と彼女に話しかける。彼女は独り旅で、八日間パリに滞在しているという。なかなか可愛らしい人だ。中に入るまで、彼女と話をする。昨夜から久しぶりのまともな会話。少しほっとする。
金属探知機と、鞄のチェックが終わって宮殿の中庭に入る。そこで日本人のお姉さんと別れる。中は恐ろしく整備の行き届いた、恐ろしくキンピカの建物であった。歴史の流れを感じされない。昨日竣工したばかりという感じ。日光の東照宮を思い出す。東西を問わず、金と権力のある人は、同じ趣味に走るということなのであろう。
オーディオガイドと地図をもらい、宮殿の中に入る。ルイ十四世の寝室、マリーアントワネットの寝室、「鏡の間」、「戦いの間」などを見学する。ルイ十四世の寝室は、玄関の上にある。王様の寝室なんて、奥まった場所にあるのかと思ったら、そうではなかった。「太陽王」と呼ばれたルイ十四世は、朝日の真っ先に当たる場所に寝室を置きたかったという。それで玄関の上になったわけである。
ヴェルサイユ宮殿、ヴェルサイユ講和条約が署名されたので有名な「鏡の間」。