日本料理と中華料理
パリの地下鉄、メトロの駅前。抱き合う男女。
十一時前、アーロンが傍に来て、
「モト、ランチに日本食を注文できるけど、どうする。」
と聞いてくる。彼は弁当配達サービスのパンフレットを見せてくれた。寿司とか、焼き鳥とか鰻まである。結構本格的。味は知らないが。食べに出るのも面倒臭いので、「カリフォルニア巻き」と「サーモン寿司」のセットを注文しておく。
一時ごろ、食堂に行くと、五十人近い従業員が飯を食っていた。日本人は十人くらい、後はフランス人である。全体の半分くらいの人間が、日本の仕出し弁当を食っている。それも箸で。
「フランス人には日本食が根付いているのだ。」
と感心する。まあ、ここが日本資本の会社だからなのかも知れないが。寿司の味もそこそこ。英国のスーパーで売っているのよりは格段に美味しい。
その日の午後は、僕が講師になって、新しいシステムの使い方をフランス人のスタッフに説明した。エリック、クリストフ、チボーという三人が生徒。英語でレクチャーをするのだが、若いエリックとクリストフは何とか僕の英語を分かってくれているよう。チボーは英語が苦手らしい。しかし、業務が分かっていれば、言葉はそれほど重要ではないことも多い。途中から、彼等のボスのムッシューVが参加する。夕方まで彼等と細かい点について打ち合わせをし、実際に扱うことになる貨物を倉庫の中まで入って、詳細に確認した。
会社を出たのが七時。日本人社員のIさんが夕食に付き合ってくれた。ホテルのチェックインを済ませた後、僕達はホテルの近くで中華料理を食べた。Iさんは、日本の通信衛星を発射基地のある仏領ギアナまで運ぶ仕事に携わり、最近南アメリカまで行って来られたそうである。
「仏領ギアナは、ロケット発射基地以外には何もない辺境地帯なんです。でも、中華料理屋だけはあったんですよね。日本から来た技術者は、いつもそこで食ってましたよ。」
とIさん。
「でしょ、でしょ、僕も昔、オーストリアとハンガリーの国境の小さな村で働いたことがあるんです。草原の真ん中の何にもない場所。そこにも中華料理屋だけはありました。」
と僕は応じる。
「中国人は偉いなあ。」
と二人で感心し合った次第。
余談になるが、通信衛星の入ったコンテナは一辺が五メートルの立方体で、コンテナ船や普通の貨物機では運べない。それで、アントノフという世界に一機しかないロシア製の輸送機をチャーターして運んだとのこと。そのチャーター料が一回一億円数千万円。
「打ち上げに失敗して衛星が落ちたら、どうなるだろう。」
ともかく、世界中どんな場所にも、中華料理店はあるというお話。
メトロは基本的に白と薄い緑。車両は線によって微妙に違う。