ミーはおフランスへ行くざんす
出張の前夜、マコトの送別会があった。
「ミーはおフランスに行くざんす。」
フランス出張の前夜、会社の近くのパブ行われた研修生のマコトの送別会の席で、僕は同僚のアツヨに言った。僕が小学生の頃大人気だった漫画「おそ松くん」の中に、「シェー」で有名なイヤミ先生が登場する。その出っ歯のイヤミ先生のお言葉。アツヨは僕より若いはずなのだが、何故か子供の頃の思い出において、彼女と僕の間に結構共通点が多い。
「もう、そんなこと言っても分かる人少ないんだから。例えばセイコさんなんて、そんな親爺のギャグ、知らないわよ。」
とアツヨは言った。セイコは最近入社した日本人の若い女性。実はその日の昼間、僕は会社のキッチンで、セイコにも同じことを言ったのであった。セイコは、
「それは良いざんすね。」
と受けてくれた。アツヨにそのことを話すと、
「彼女もなかなか勉強してるわね。」
と感心している。
翌朝の七時半、僕は、「おフランス」へ向かって、ヒースロー空港を飛び立った。フランス出張は九月に続いて今年になって二度目。パリ近郊にあるロワシーの倉庫に、新しいお客を迎えることになり、そのシステムの立ち上げというのが僕に与えられた「ミッション」なのであった。
職務上の秘密ということで、詳しく書くことはできないが、この新しいお客は「絶対に男性だけしか使わない商品」を扱っている。しかし、フランスの「ダイレクター」つまり社長さんは若いチャーミングな女性なのである。なんだか不思議な取り合わせ。
英国航空機は四十五分の飛行で、シャルル・ド・ゴール空港に着陸した。迎えに来てもらうために、同僚のアーロンに電話をする。
「五分ほどで迎えに行くから。」
とアーロン。彼の「五分」がいつも結構長いのは知っている。辺りを観察しつつ迎えを待つ。
「フランス人の女の子って、英国人よりも全体的にレベルが高いよなあ。」
など思いながら。実際、フランス人の女性の方が華奢だし、清楚な顔立ちだし、ファッションのセンスも良いように思う。フランスで女性を観察するのは楽しいものである。
十五分ほどして、アーロンが現れた。彼はニュージーランド人である。ロワシーのオフィスと倉庫は、空港のすぐ近くである。と言うか、シャルル・ド・ゴール空港そのものがロワシーの町にあるのである。
会社に着き、玄関の受付でドアを開ける「セキュリティー・パス」を貰い首にかける。それから、三階にあるアーロンのオフィスへ向かう。ところが、玄関からそこへ辿り着くまでに、これまた結構時間がかかるのである。
ドーバー海峡の上空で夜明けを迎える。