雨の似合う街

不気味なほど美しかった朝焼け。その後しっかり雨になった。

 

その夜は九時半には眠ってしまった。夜中に目を覚ますと音楽が聞こえる。パーティーで皆がダンスをしているらしい。しかし、うるさいという感じはない。僕はまた眠りに落ちた。

 翌朝六時前に目を覚ます。カーテンをめくって外を見ると真っ暗な中、水平線の辺りだけがオレンジに染まっている。少し明るくなるのを待って、外に出て、街を散歩してみた。

日曜日の朝、只でさえ静かな街が、一段と静まり返っている。帆船のマストが見えたので、そこを目標に歩いてみる。果たして、「ハウステンボス」のような、古い街並みを再現した施設があり、帆船はその中心に係留してあった。朝焼けがきれいだ。

「夕焼けは良い天気の予兆、朝焼けは悪い天気の予兆。」

余りにも美しい朝焼けを前にふとそんなことを考えた。マリーナへ行ってみる。沢山のヨットが泊まっている。ホテルに戻ってパンフレットを見ると、ここハートルプールはマリンスポーツの「メッカ」で、夏の間は帆船のパレードなどもあるという。

最上階の展望レストランで朝食を取っていると、窓にパラパラと雨が当たりだした。その雨は、出発する九時ごろには本格的になった。僕は、朝見た「美しすぎる市会議員」ならぬ「美しすぎる朝焼け」を思い出した。

激しい雨の中、水しぶきを上げながらダーラムへ向かう。街に入って、マーケット広場に近付くと、前に車の長い列が見えた。皆一年生の親達の車らしい。ダーラムは狭い街なので、千人以上の新入生の親が皆車で乗りつけると、交通が麻痺してしまう。それで、時間帯を分けて少しずつ車が街に入るように考慮してある。しかし、それでも、長い列が出来てしまうのだ。マーケットプレースでは数人の警察官、交通整理に余念がない。雨の中ご苦労さん。

スミレのカレッジのある地域は「ペニンシュラ」(半島)と呼ばれていて、「ハートフォード」、「セント・チャズ」、「セント・ジョンズ」の三つのカレッジが並んでいる。カレッジの前には「ウェルカム」の横断幕が掛かっており、「お手伝い係り」の学生達が待ち構えている。彼等は車が着くたびに

「ウォー!」

という歓声を上げ、荷物運びを手伝ってくれる。強い雨の中、手伝いの学生は皆ずぶ濡れだ。彼等に手伝ってもらい、スミレの部屋に荷物を運び込んだ後、僕は車を停めに行く。

 橋を渡り、ペニンシュラを抜けた場所に車を停め、同じ道をまた戻る。橋の上からの景色を見て僕は息を呑んだ。川、木々、教会、街並みが雨に曇り、ボンヤリとした輪郭で目の前に広がっている。

「ダーラムは雨の似合う街なんや。」

僕はそう呟いた。

雨に煙るダーラムの街。風情がある。

 

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