フランス最初の食事
ロンドン、セント・パンクラス駅で出発を待つユーロスター。パリ行、ブリュッセル行の他に今年からマルセイユ行が出来た。
海峡トンネルを出て、フランス側に入った辺りから雨が降り出し、列車を乗り換えたリールではかなり本降りになっていた。ダンケルクでは雨は降っていなかったが、街は厚い灰色の雲に覆われ、駅前の、昔はそれなりにカラフルであっただろう建物もかなりくすんでいて、ダンケルクの第一印象はかなり陰鬱なものであった。港町ということだが、駅前からは海の気配は感じられなかった。
ダンケルクに新しい大型特殊車両の工場が建築されることになり、そのコンピューターシステム開発の入札に僕の会社も参加していた。僕がそのプロジェクトの担当で、その日の午後に、お客さんから入札の為の説明会が予定されていた。
「まだ時間があるので、昼飯でも食っていきましょう。」
とT課長。
「せっかくフランスへ来たんだから、美味しい物を食べましょうよ。」
とKさん。
でも、駅前にレストランらしきものは見当たらない。カフェに入って、結構まともな英語の話せるお兄ちゃんに聞いてみる。
「レストランはない。でも、パン屋とハンバーガー屋はある。」
とのこと。
「ちょっとちょっと、どう言う町なの。」
と僕たちは一様に文句を言い始める。仕方なく、僕たちはハンバーガー屋へ行く。当然のことながらハンバーガーを、当然のことながらフランス語しか解さないおばちゃんに注文する。三人ともフランス語は喋れないが、一応K女史はフランス語で数を言うことができた。
「トロワ・ハンバーガー」
ハンバーガーだけでは愛想がないかと思い、僕が「ポン・フリッツ」(フライドポテト)を二人前注文、店の中の小さなテーブルで食べることにする。おばちゃんがやって来た。高さ十センチほどの巨大なハンバーガーと洗面器一杯分はあるフライドポテトを持って。
「ギョエ〜。」
グルメの国、フランスでの食事は、見ただけで腹いっぱいになるハンバーガーと揚げ芋から始まったのだった。
次にダンケルクを訪れたのは、十一月のこと。僕の会社が、入札で勝ち、注文をもらえることになった。そのお礼とご挨拶に、もう一度顧客を訪問することになったのだ。前回も一緒だったT課長の他に、営業部長のAさんも一緒。三人で前回と同じく、ユーロスターでロンドンを発ち、リールで乗り換えて、昼過ぎにダンケルクに着いた。その日も、どんよりとした曇り空、ロンドンのような湿気の多い空気が街を覆っていた。顧客側の社長さんと会ってお話ししたのは二十分ほど。片道三時間以上かけて来ているのに。でも、営業活動って皆このようなもの。役目を終えた僕は帰り道、駅での待ち時間や列車の中でずっとビールを飲んでいた。
ダンケルク駅前。人通りが少なく、何となく暗い印象。