モーツアルトと携帯電話
モーツアルトと携帯電話。しかし、ここまでやるとは思っていなかった。
姉妹は、いかにも世間知らずの「お嬢さん」という感じ。「お嬢様ファッション」に身を包んでいる。しかし、スカートやワンピースではなく、スラックス姿である。二人の恋人が「戦争」に行くと言って現れたときには、迷彩色の軍服に水色のベレー帽といういでたち。「国連平和維持軍」がイラクかアフガニスタンに行くよう格好だ。
アルフォンソが自分で筋書きを書いた「芝居」関して、誰かに指示を出すときには携帯電話を使う。突然、「ノキア」の「呼び出し音」が鳴る。
「ピロロン、ピロロン、ピロロロンロン、ピー。」
誰もが、
「また、誰か携帯のスイッチを切り忘れたな。」
と思う。ところが、実は鳴ったのは舞台の上のアルフォンソの携帯、彼が慌ててポケットから電話を取り出して話し出す。またもや場内大爆笑。
姉妹が恋人の写真を見て懐かしがるのも携帯だし、グリエルモがペンダントをドラベッラに贈った後、それを彼女の首に掛け、その後ふたりが携帯で記念撮影をするなんてシーンもあった。つまり、この演出で、携帯が最も重要な小道具として使われているのだ。
ひとりになったとき、アルフォンソが鏡の前でゴルフの素振りを始める。これにも笑った。
「パンク兄ちゃん」は姉妹の関心を引くため、偽の毒薬を飲み、今にも死にそうな演技をする。そのとき、「ドイツ製の最新の治療器具」として、看護婦に引かれて、心電図みたいな機械が登場する。その器具を当てられた二人がショックを装い看護婦を足で挟み、逃げられなくしてしまう。昔、吉本新喜劇の池乃めだかさんがやっていた「蟹バサミ」のギャグそのままだ。
ともかく、あちこちにギャグが散りばめられている。基本的に「喜劇」であるので、観客を笑わせなければ、この劇の本来の目的は達せられないのだが。
舞台はとてもシンプル。ソファと、クッションの山、鏡と小さなテーブルと椅子があるだけ。全てが白で統一されている。最初から最後までそのセット。
「お金の掛からない舞台ね。」
とスミレが言った。確かにその通り。
しかし長いオペラである。一時間半の第一幕の後、三十分ほど休憩があり、その後更に一時間半の第二幕がある。休憩時間中、皆さんトイレとかドリンクに行かれるのか、観客席はほぼ空になった。ずっと左側ばかり見ているので首が痛くなってくる。休憩時間中は出来るだけ右を見て、バランスを取ることにする。
確かに長いオペラであるが、不思議に退屈はしなかった。時々オペラグラスで歌手の表情を観察するのも面白い。歌っている歌手達は、本当に表情が豊か。しかし、それも舞台の上なので「自然」に見えるが、面と向かってやられたらきっと「引いて」しまうだろう。
休憩時間、出来るだけ右側を向いて、バランスを取る。