「モツあると?」の「漉し餡取って」
当然こんな舞台を予想していた。ところが・・・
金曜日の夜、コヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスにオペラを見に行くことになった。演目はモーツアルトの「コシ・ファン・トゥッテ」。末娘のスミレ、またの名「ポヨ子」が誰かと一緒に行くつもりで、切符を二枚買ったのだが、お相手が見当たらなかったのか、父親の僕にお誘いがかかったのだ。
僕はそのことを殆ど忘れていた。その日の朝、朝食を食べていると、妻が起きてきて、
妻:「今日は、オペラ行くんでしょ。直接行くかも知れないなら切符を持っていったら。」
僕:「そやった。『モツあると?』の『漉し餡(こしあん)取って』へ行くんや。」
妻:「えっ?」
僕:「『モーツアルト』の『コシ・ファン・トゥッテ』。」
妻は朝から疲れることを言わないでよという顔をしている。僕は、博多弁を話す姪のカサネが居酒屋へ行って、「モツ煮込み」が食べたいとき、店の兄ちゃんに、やっぱり、
「モツあると?」
と尋ねるのだろうかと、くだらないことを考えている。
僕:「そう言えば、昔、ザルツブルクのモーツアルトの生家に行ったねえ。」
妻:「そう、そんなこともあったわね。覚えてるわ。」
僕:「あのとき、モーツアルトの頭蓋骨が飾ってあったん覚えてる?」
妻:「そんなのあったかしら。」
僕:「あったやん。大きいのと小さいのとふたつが。小さいのが子供の頃の頭蓋骨で、大きいのが大人になってからの。」
妻は更にムッとしている。
僕は家を出るときに財布にオペラの切符を入れた。そこには、開演時間は七時、「遅れた人は入れません」という注記が書いてあった。
定時の三時半に退社すれば、一度家に戻って車を置いて、何かを腹に入れて、地下鉄に乗って、楽勝でコヴェント・ガーデンに着くことができる。しかし、その日も例によって残業になってしまった。ヒースローにある会社を出たのは五時前。二時間もあれば十分間に合うことは間違いないのだが、どこかで食事をする時間があるか、ちょっと心配。
金曜日の夕方、おまけにローマ教皇、ベネディクト十六世がちょうどロンドンに来ているとのこと。道はやたら混んでいた。六時過ぎに、地下鉄のブレント・クロス駅前に駐車し、そこから地下鉄に乗る。地下鉄の中で、インターネットからダウンロードし、会社で印刷した「コシ・ファン・トゥッテ」のプロットと登場人物を予習する。さすがにイタリア語のオペラ、予習していかないと、ストーリーが追えないと思ったからだ。
レスター・スクエアで降りたのは六時二十分頃。レスター・スクエアからコヴェント・ガーデンまでは徒歩五分。まだどこかで何かを食べる時間がありそうだ。僕は「ヌードルショップ」と書いてある「似非日本レストラン」に入り、うどんとキュウリ巻きを食べた。
コヴェント・ガーデンにあるロイヤル・オペラ・ハウス。ここでランチを取ると、「お弁当」ガーデン。