オペラ座にて

 

開演前のオペラ座のロビーで歓談する人々。

 

六時四十五分に、ロイヤル・オペラ・ハウスの前に立つ。辺りはまだ明るく、最後の夕日がオペラ座の壁に当たっている。

ロイヤル・オペラ・ハウスに来るのは初めて。クラシック音楽は好きだし、オペラはウィーンに滞在したとき、立見席で何度か見たことがある。そのとき、結構印象が良かったので、また見たいと思っていた。しかし、根が無精者、わざわざ夜仕事が終わってから、劇場に足を運ぶのがじゃまくさかったのだ。

「オペラとサッカーの試合は『ナマ』で見てなんぼ。」

と言うのが僕、モトのモットーのひとつなのだ。オペラも、サッカーの試合も、テレビで見るとすぐ退屈してしまい、とても一時間半も二時間も続けて見ることができない。しかし、劇場やスタジアムで「ナマ」見ると、これが不思議と退屈しないで、時間がアッと言う間に過ぎるものなのだ。

中に入る。広い吹き抜けの場所があり、それを囲むようにレストランがあった。そこはほぼ満員。ポッシュ、金持ちそうな人々が、開演前の早いディナーを済ませている。腹ごしらえも大事だが、もうひとつ大事なことが。「コシ・ファン・トゥッテ」は三時間に及ぶ長大な作品。それに備えてトイレに入る。トイレに座っていると携帯が鳴り、取るとスミレだった。

娘:「パパ今どこ?」

僕:「三階のトイレ。ウOコしてる。」

娘:「もう、パパったら。わたしも今着いたから。」

三階の一番前の席に着くと、スミレもやってきた。今朝は彼女の顔を見てないので、昨日の夜以来の再会ということで、一応ハグをして迎える。昨夜もまた夜遊びをしていたポヨ子は眠そうだ。

「なかなか良い席じゃん。」

と娘が言う。確かに、十三ポンド、二千円弱の席にしては、舞台が全部見える良い席だ。最前列で前に手すりがあるので、それに寄りかかって見ることもできる。しかし、舞台が、左前方斜め四十五度の方向にあるので、ずっと左側を見ていなければならない。

ロイヤル・オペラ・ハウスは、大まかに言って、三種類の席に分かれている。オーケストラボックスの後ろの平土間が「ストール」、ここの値段が一番高い。それを取り巻く半円形の「バルコニー」、典型的なオペラ鑑賞の場所である。その上にごく普通のすり鉢型の「アンフィシアター(円形劇場)」。僕達の席は、その円形劇場の左側の最前列。立見席なんてものある。当日券のみとのこと。

僕らがロンドンに移り住んでから、この劇場は何年もの間、改修のために閉まっていた。二〇〇〇年、「ミレニアム」を記念して再オープン。中は思ったより小ぶりで、収容人員は約二千人とのことだ。

三階席より、舞台、ストール、バルコニーを望む。

 

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